第545話 奴隷街の支配者「女帝」

「ミナ……」

「えっ……れ、レナ君?」

「どうしたんだよ兄ちゃん?」



顔を近づけてくるレナに対してミナは戸惑い、後ろに下がろうとしたがそれを阻止するようにレナは彼女を近くの建物の壁に追い込む。


壁際に追い込まれたミナは焦りの表情を抱くが、徐々に顔を近づけてくるレナに対して彼女は抵抗できなかった。しかもレナは右手を彼女の豊かな胸元に伸ばす。



「ミナ……」

「ひゃうっ……れ、レナ君、駄目だよ。こういう事は、その……僕達にはまだ早い、よ。あんっ……」

「ちょ、本当にどうしたんだよ兄ちゃん!?」



どんどんと顔を近づけ、胸を揉む力が強くなり、至近距離まで距離が縮むとミナは頬を赤らめてレナを圧し返そうとするが、上手く力が入らない。慌ててコネコがレナの身体を掴むが、レナは止まらずに二人の唇が近づく。


唇が触れる寸前、ミナは戸惑いながらも覚悟を抱いたように瞼を閉じようとしたとき、不意に彼女は自分達の向かい側に存在する建物に人影を発見する。その人物を見た瞬間、意識を取り戻したミナはコネコに声をかけた。



「コネコちゃん、あそこに誰かいる!!」

「えっ!?」

「あら……もう見つかっちゃった」



ミナの言葉にレナの服を引っ張っていたコネコは驚いて振り返ると、そこには建物の屋根の上に座り込む女性が存在した。このような場所に似つかわしくないほどの綺麗な赤色のドレスを身にまとい、黄金のように煌めく長い金髪の女性だった。


容姿は森人族のように整っているが、耳元に関しては人間と同じ形をしており、最初に彼女を見たコネコとミナは人間かと戸惑う。しかし、彼女の背中には蝙蝠の翼を想像させる羽根が生えていた。それを確認したミナとコネコは相手が普通の人間ではない事に気づき、咄嗟に彼女達は正気ではないレナを庇って女性と向かい合う。



「だ、誰!?」

「何者だ!?」

「ふふっ……もう少しだけ楽しませてあげようと思ったけど、気づかれたのなら仕方ないわね」

「うっ……」



屋根の上に座り込む女性は羽根を広げると、音も立てずに飛び上がり、地面と着地した。その様子を見てミナとコネコは構えるが、レナの方は頭を抑えて膝を付いた。その様子を見て二人はレナの異変が目の前の女性の仕業かと疑う。



「お前っ……レナ君に何をしたぁっ!!」

「あら、怖いっ……子供だと思ったけど、中々の気迫ね」

「舐めんなっ!!」



女性の元に向けて二人は駆け出すと、手槍と足を同時に突き出す。しかし、二人の攻撃に対して女性は上空へと飛び上がると攻撃を回避して少し離れた場所に降り立つ。


並の人間ならば反応できない速度で攻撃を繰り出したにも関わらず、二人の攻撃を容易く回避した女性は手元を動かすと、先ほどまで確実に気絶していたパンダナを身に付けた男たちが起き上がる。その様子を見てミナとコネコは驚き、彼女達は何が起きているのか理解できなかった。



「さあ、捕まえなさい」

「ううっ……ああああっ!!」

「おああっ!!」

「な、何だこいつら!?」

「様子がおかしい……気を付けて!!」



先ほど散々に痛めつけられたにも関わらずに男達はミナとコネコの元へ向かい、その様子はまるで理性を失った獣のようだった。捕まるのはまずいと判断したミナとコネコは男達から離れようとすると、女性は指示を出す。



「まずは槍を持っている女の子の方を捕まえなさい」

「やりぃっ……」

「つかまえるぅっ……」

「くっ……!!」

「逃げろミナの姉ちゃん!!」



すばしっこいコネコではなく、ミナの方が捕まえやすいと判断したのか男達は女性の指示に従うと彼女の元に殺到した。倒したはずの30人近くの男性が一斉に近付いてくるが、それに対してミナは勢いよく跳躍を行う。


戦闘職の称号を持つミナは常人離れした身体能力を誇り、彼女が本気で動けば普通の人間に捕まるはずがない。実際に迫りくる男達の頭上を軽々と飛び越えたミナは手槍を構えると、女性に向けて放つ。



「刺突!!」

「無駄よ、盾になりなさい」

「ああっ!!」

「なっ!?」



女性に向けて槍を放とうとしたミナだったが、女性が指を鳴らした瞬間に大柄な男性が前に出ると彼女を守るように立ちふさがる。慌ててミナは手槍の軌道を変化させて男性の足を貫くが、男性は足を突かれても微塵も痛みを感じる様子も見せず、それどころかミナに覆いかぶさろうとした。



「うがぁっ!!」

「うわっ!?」

「危ない、ミナの姉ちゃん!!」



咄嗟にコネコが駆けつけると男性の顔面を蹴り込み、覆いかぶさろうとした男性を地面へ転倒させる。どうにかコネコの援護で助かったミナだったが、女性はそれを見ても笑みを浮かべたまま動かない。


至近距離に存在するのに逃げようともしない女性に対してミナとコネコは怒りを抱き、互いに素手の状態でも女性へ向かおうとした瞬間、3人の間に強烈な勢いで闘拳が放たれた。



「っ!?」

「うわっ!?」

「こ、これは……兄ちゃん!?」

「……はあっ、はあっ」



飛び込んできた闘拳によって女性と距離を取ったミナとコネコは驚いて振り返ると、そこには壁に手を押し当てながらどうにか立ち上がったレナの姿が存在した。どうやら彼が闘拳を撃ち込んだらしく、付与魔法を施された闘拳はレナの元へと戻る。

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