第519話 三姉妹の事情

「それで……どうして君たち3人は森人族でありながら人の国で冒険者になったんだい?わざわざ人間に変装してまで危険な冒険者活動をやる理由も知りたいね」

「別にたいした意味はないわよ、私たちは色々とあって自分の里を抜け出して旅がしたかったの。人間に変装して冒険者になったのも金稼ぎもいいし、色々な場所に旅立っても別に問題はない職業だからよ」

「私達の里では子供の頃から魔物と戦う訓練も受けていたので、冒険者活動も別に苦ではありません。まあ、調子に乗りすぎて大迷宮に挑み、魔物に捕まってしまったのは不覚でしたが……」

「なるほど、そういう事情だったのか」

「里を抜けるとき、森人族だとバレないようにしろと大婆様に言われたので正体を隠していましたぁっ」



緑の騎士の3人は自分たちが暮らしていた里を抜け出し、冒険者となった理由を聞くとルイは疑う事もなくあっさりと納得した。だが、ここでドリスは疑問を抱いて尋ねる。



「どうして御三方は里を抜け出したのですの?」

「理由は色々とあるけれど……まあ、武者修行のような物ですね。私達の里では一定の年齢を迎えると、里から追い出されて旅をしなければならないんです。最低でも10年間は戻る事が許されません」

「え、そんな厳しい掟があるんですか!?」

「シノさんと似たような境遇だったのですね……」



住んでいた場所を追い出され、しかも10年間は戻る事が許されないという話にレナは驚き、生まれ育った場所なのに戻る事が出来ないというのはシノと同じだった。


彼女の場合は一定の金銭を集めなければ故郷に帰る事は許されず、もしも集める事が出来なければ一生は故郷へ戻る事は許されない。彼女達もシノと同じような境遇なのかとドリスは同情しかけるがアイーシャがすぐに説明の補足を行う。



「いや、人間の間隔だと厳しいように思えるかもしれないが、私たちにとっては10年というのはそれほど長い時間ではないんだ。森人族は人間よりも遥かに長寿だからね」

「長寿?」

「私たちの平均寿命は300~400年よ。人間の5倍ぐらいは長く生きられるわ。言っておくけど、こう見えても私達はあんたたちよりずっと年上なんだからちゃんと敬いなさい」

「助けられておいて何を失礼なことを言ってるんだお前はっ!!」

「はうっ!?」



ノルンの言葉に流石にアイーシャも黙っていられずに頭を叩くと、ノルンは涙目で後頭部を抑えながらうずくまる。その様子を見てアルンは苦笑いを浮かべ、不意にレナの方を見て不思議そうな表情を浮かべた。



「んっ……?」

「え、あの……何ですか?」

「あ、いえいえ……気にしないでください。ちょっと、知っている人と少し似ていたと思っただけなのでぇっ……」



アルンの反応にレナは首を傾げるが、話を戻すと彼女たちが人間に化けて冒険者をやっていたのは里の掟で武者修行の旅のためであり、他に理由はないという。そして話は本題へと入り、彼女たちの身に何が起きたのかをルイは問い質す。



「それでは話を戻すが……君たちの身に何が起きたのかを教えて欲しい。どうして君たちは捕まっていたのか……いや、生き残れたのかを教えて欲しい」

「……はい、ですがその前にお願いがあります。私達が森人族である事は秘密にしてくれませんか?」

「え?」

「なるほど、確かに人間と偽って冒険者になったと知れば冒険者ギルドも黙っていないだろうね」



緑の騎士の3人の冒険者が森人族である事を知っているのは救出したレナ達、そして金色の隼の団長であるルイ、彼女に従う副団長や幹部だけである。彼女たちを移動するときは姿を隠して連れてきたので他の人間たちが緑の騎士の3人が森人族である事を知らない。


冒険者ギルドの規則上、身分を詐称して冒険者になる事は禁止されているため、もしも緑の騎士の3人が種族を偽っていたと知れば何らかの罰則を与えられる。最悪の場合、彼女たちは冒険者資格を奪われてしまう。そうなると彼女たちの白銀級冒険者の資格は剥奪される。



「助けられておいて何を偉そうにと思われるかもしれませんが、装備も金品も何もかも奪われた私達にとっては冒険者という資格まで失ったら何も残らないんです。どうか、お願いします……この願いを聞き遂げてくれるのなら私達が知る情報を全て話しますし、必ず恩を返します」

「ふむ、森人族は受けた恩は必ず返す義理堅い種族だとは聞いている。それに君たちのような可愛い娘たちが路頭に迷うのは心苦しいな……わかった、その取引を引き受けよう」

「あ、ありがとうございます!!」

「ありがとうございますぅっ」

「あ、ありがとう……ございます」



ルイの申し出に緑の騎士の3人は深々と頭を下げるが、そんな彼女たちに対してルイは言葉を付け加えた。



「但し、恩を返すのは僕ではなく、ここにいる彼等にしてくれ。僕はあくまでも彼等に仕事を任せただけに過ぎないからね、恩返しをするというのであればレナ君たちの力になってほしい。君たちもそれでいいかな?」

「え?あ、はい……」

「私は別に構いませんが……」

「わ、分かりました……必ずやこの恩を返します」



急に話を振られたレナとドリスは戸惑うが、緑の騎士の3人は改めてレナ達に頭を下げ、礼を告げた。そして3人は大迷宮で起きた出来事を語り始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る