第517話 捕まった理由

「他の冒険者の方たちは……」

「……殺されたわ。生き残っているのは私たちだけよ」

「そんな……」

「私達がもっと早く助けられれば……」



アイーシャの言葉にレナ達は気落ちし、まさか行方不明者がまだ生きていたとは予想できず、自分たちがもっと早く動いていれば他の冒険者は殺される事はなかったのかと考えてしまう。しかし、そんな彼等の考えを読み取ったようにアイーシャ達は首を振った。



「もしもの話をしていても仕方がないわ。私たちは貴方のお陰で命が助かったのも事実、決して貴方達の責任はないわ」

「それに私たち以外の冒険者の殆どは捕まった後はすぐに殺されてしまったわ。ここは太陽の光が差さないから時間の経過が分かりにくいけど、奴等に捕まった冒険者は私達で最後、他の冒険者は数人しか残っていなかったわ」

「その冒険者も隙を見て檻から抜け出して逃げ出したけど、今さっきに捕まって殺されてしまいました……まあ、私達を見捨てて自分一人で助かろうとしたのであんまり同情できませんけど……」

「そ、そうなんですか……」



3人の話によるとレナ達が訪れる少し前にもう1人だけ生き残っていた冒険者が存在したらしいが、3人を残して一人だけ檻から逃げ出したらしく、結局はゴブリンキングの配下に捕まって餌と化したらしい。そんな彼女たちの話を聞いてレナ達は反応に困るが、ゴブリンキングが食していた男性の死体の正体を知る。


だが、ここで疑問に残ったのはどうしてゴブリンキングが彼女たちと脱走を計った冒険者を捕まえていたのかであり、レナ達は率直に尋ねた。



「あの……この骨の檻はゴブリンが作った物なんですか?」

「はい、これまでにゴブリンが食した獲物から作り出された物です。大迷宮に吸収されないように底の部分には特別な毛布を敷き詰めています」

「布……?」



言われてみてレナは檻の底の部分を確認すると、今まで気づかなかったが絨毯のような物が敷き詰められている事に気づき、この特殊な毛布のお陰でゴブリン達が作り出した「骨の檻」は大迷宮に吸収される事もなく残り続けるという。


だが、肝心の檻の方は酷い出来合いであり、鉄格子ならぬ骨格子とでも言えば良いのか、隙間の間隔も一定せずに無理やり骨を組み合わせたような状態だった。いったいどうやって繋ぎとめているのかレナは確認すると、蜘蛛の糸のような物で巻き付けてある事に気づく。



「この糸は……」

「それは黒蜘蛛ブラックスパイダーと呼ばれる魔物の糸よ。あいつら、檻を作るときに黒蜘蛛の糸の特性を利用して作り上げたのよ」

「黒蜘蛛の作り出す糸は最初は粘着性が強いですが、時間が経過すると固まってしまいます。それを接着剤のように利用してこの檻を作り上げたんですぅっ」

「魔物がそんな方法で檻を作るなんて……」



ゴブリンは知能が高く、人間のように武器を扱う。但し、大半のゴブリンは人間が作り出した武器を使用するのだが、この大迷宮のゴブリン達は自分たちの手で檻を作り出した事にレナは驚く。


大迷宮の魔物は気性が荒く、地上の魔物よりも知能が低いと思われがちだが、この檻を見る限りだと自分で創意工夫して道具を作り出したている。



(ゴブリンには驚かされてばかりだな……けど、本当にこれだけの物をゴブリンだけで作り上げたのか?)



不格好ではあるが捕まえた獲物を逃がさないために作り出された檻を見てレナは疑問を抱き、ここで気になっていた質問を行う。どうしてゴブリンキングは冒険者達を殺して餌にするのではなく、わざわざ捕まえて檻の中に閉じ込めていたのかを尋ねる。



「あの……どうしてゴブリン達はわざわざこんな物を作り出してまで皆さんを捕まえたんですか?」

「それは……」

「人間よ!!人間がそいつを作り出すようにゴブリンの奴に命令していたのよ!!こんな物っ!!」

「に、人間?それはどういう意味なの?」



レナの言葉にアイーシャよりも真っ先にノルンが反応を示し、彼女は涙目で悔しがるように檻を蹴飛ばす。だが、外見の割には頑丈なのか檻はびくともせず、逆に蹴りつけたノルンは足を痛めてしまう。



「いったぁっ……!?」

「ノルン、落ち着きなさい!!すいません、妹が取り乱して……」

「仕方ありませんわ、こんな物に閉じ込められていては精神が乱れるのも当たり前ですわ」

「でも、人間がゴブリンに命令したというのはどういう意味なんですか?」

「……私たちがこれまで受けた出来事を全て話します。ですが、その前にまずはこの場所から移動しませんか?」



アイーシャの言葉は最もであり、ここでレナ達は自分たちが危険極まりない大迷宮に存在する事に気づいた。何時までもこんな場所で話し合っていたら他の魔物に捕まる恐れもあるため、レナ達はヒリンを連れ出してきたデブリ達が戻り次第に3人を連れて転移台から地上へと帰還を果たした――

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