第503話 最悪の相性

(何だ、この感覚……!?)



闘拳が死霊騎士に触れた瞬間、レナは異様な感覚に襲われた。本来ならば強烈な衝撃を生み出し、あのゴブリンキングやブロックゴーレムでさえも打ち倒すはずの攻撃なのだが、何故か死霊騎士の甲冑を破壊する事が出来なかった。否、破壊どころか衝撃さえも吸収されるように音さえもならなかった。


地属性の魔力を限界近くまで纏わせた一撃を受けても死霊騎士は傷一つなく、それどころか闘拳の方が徐々に色を失い、元の黒色に戻ってしまう。嫌な予感を覚えたレナは即座に死霊騎士から離れると、今度はドリスが生み出した氷鎖の方にも異変が生じる。



『オオオオオッ……!!』

「きゃっ!?わ、私の鎖が……!?」



死霊騎士を拘束していた鎖がまるで急速に溶けるかのように縮み始め、やがては完全に消えてしまう。その様子を見てドリスは戸惑い、本来ならば初級魔法とはいえ、作り出した氷は彼女の意思でなければ消えてなくなるはずがない。


この時に死霊騎士が鎖を掴んだ瞬間、熱で溶けるというよりは徐々に存在自体が薄くなっていき、やがて消えていく氷の鎖を見て、レナとドリスは同時に死霊騎士の力の正体を見抜く。



「「まさか……魔力を吸収した!?」」



二人は同時に同じ推理に辿り着き、レナは闘拳に視線を向けて完全に付与魔法が解除された事を確認する。先ほどの攻防でどうやらレナは闘拳に封じ込めていた地属性の魔力が死霊騎士に奪われたらしく、ドリスの魔法が消え去った事も思い出す。





――魔力とは言ってみれば人間の生命力その物でもあり、同時に魔法を構成するために必要不可欠な材料、エンジンを動かすためのガソリンに等しいエネルギーでもある。どうやら死霊騎士はあらゆる魔力を吸収する能力を持つらしく、その力を利用してレナ達の魔法を無効化していた事が発覚した。




最初にレナの魔銃から発射された弾丸が効かなったのは弾丸に付与されている魔力を一瞬で吸収し、弾丸に付加されていた重力その物が消えてしまったことで勢いが殺されて威力がなくなってしまった事が原因だった。その後の極化を引き起こしたレナの闘拳も受け付けなかったのも同じ理由であり、いくら魔力を込めて重力を発生させようと、その魔力その物を奪われてはレナの攻撃は通じない。


その一方でドリスの螺旋氷弾や氷鎖が瞬時にかき消されなかった事に関しては、恐らくは彼女の魔法の場合は「物体」である事が関係していると思われた。先ほどの例だとレナの魔銃の弾丸は完全に無効化されたのに対し、ドリスの螺旋氷弾は死霊騎士を吹き飛ばす事には成功した。


この二つの違いはあくまでもミスリルの弾丸は重力によって加速しただけに過ぎず、その重力を生み出す魔力を奪われると効果を失う。一方でドリスの螺旋氷弾の場合は彼女の意思で自由に動かせるため、完全に魔力を吸収されて消されてしまう前ならば死霊騎士にも通じると考えられた。



(死霊騎士には俺の魔法が効かない……!?)



地属性の魔法を極め、遂には「極化」の領域に辿り着いたレナだが、死霊騎士に自分の魔法が通じないという事実に衝撃を隠せない。今までの敵の中でも圧倒的な力を持つ存在はいくらでもいたが、付与魔法その物を受け付けない存在など相手にしたことがない。


だが、落ち込んでいる余裕もなく、死霊騎士は起き上がると全身から闇属性の魔力を溢れさせる。どうやらレナとドリスの魔力を吸収し、更にその魔力を自分の魔力に変化できる能力を持っているらしく、死霊騎士の動作が素早くなった。



『オアアアアッ!!』

「うわっ!?」

「まずい、避けろ兄ちゃん!?」



一瞬にして死霊騎士はレナの元に接近すると、そのまま右腕を振りかざす。咄嗟にレナは死霊騎士に触れないように逃げようと瞬間加速を発動させるが、空振りした死霊騎士の拳が迷宮の壁に激突した。


死霊騎士の拳が触れた瞬間に壁に亀裂が走り、一部が瓦礫と化して崩れ落ちる。それを見たレナ達は目を見開く。この煉瓦の大迷宮を構成する迷路の壁は非常に頑丈で、レナの所有する魔銃でも弾丸がめり込む程度で破壊には至らない。これまでにもミノタウロスやブロックゴーレムという規格外の怪力を誇る魔物と戦ったレナ達だが、死霊騎士は明らかにこの2匹を上回る腕力を誇る。



(まさかこいつ、吸収した魔力で自分を強化しているのか!?)



先ほどの極化を起こしたレナの闘拳を受けた時、死霊騎士は大量の地属性の魔力を吸収し、自分の魔力へと変換させた。その影響なのか死霊騎士の攻撃が強化されたらしく、壁から拳を引き抜いた死霊騎士はレナに振り返ると、今度は両腕を伸ばす。



『アアッ!!』

「うわぁっ!?」

「させるか馬鹿っ!!」

「レナさん!!」

「このぉっ!!」



レナにしがみついて来ようとした死霊騎士に対してミナとコネコが動き、ドリスは魔法を使おうとしたが、全員の行動が終える前に通路側に「奇声」が響き渡った。

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