第500話 死霊騎士《リビングアーマー》

「な、何だあれ?冒険者か?」

「こんな場所で倒れているなんて、もう死んでるのか?」

「気配は感じないけどな……」

「……でも、嫌な予感がするわ~」



コネコは気配感知を発動させて様子を伺うが、甲冑からは何も感じられなかった。中身が入っていないのか、あるいは既に死亡しているのかと考えられたが、ドリスとレナは確かに甲冑から「魔力」を感じ取る。



「いえ、確かに魔力をは感じますわ。感じますけど……なんだか変な気分ですわ」

「変な気分?」

「うん……言葉にはしにくいんだけど、とにかく嫌な感じがする」



レナとドリスは倒れている甲冑から発生する魔力に対して嫌な予感が拭えず、迂闊に近づいてはならないと先ほどから本能が告げていた。一刻も早くこの場から離れろと肉体が警告し、これ以上に近付けない。


しかし、特に甲冑が動く様子はなく、もしも中に人間が入っていてこの場所で行き倒れになっていたら考えると見過ごす事は出来ない。しかし、甲冑から放たれる異様な魔力にレナとドリスは圧倒され、近寄るどころか今すぐにでも離れたい気分に陥っていた。



「ど、どうすんだよあれ?このまま放っておくのか?」

「でも、中に人がいたら……」

「た、確かめる必要はありますわね。ですけど、どうしましょう?」

「ここは俺に任せて……もしも中に誰かが入っているとしたら、きっと反応があるはず」



広場に倒れている甲冑を見てレナは魔銃を取り出し、決して狙いを外さないように構えた。その行為に他の者たちは驚き、まさか倒れている相手に弾丸を打ち込むのかと焦るが、レナはためらわずに発砲を行う。



「ここっ!!」

「わっ!?」

「……反応はありませんね」



迷路内に発砲音が鳴り響き、弾丸は甲冑を通り過ぎて壁にめり込む。普通の人間ならば発砲音に気づいて何らかの反応を示すところだが、倒れている甲冑は動く様子がなく、それを確認したレナは弾丸を回収するために掌を差し出す。


魔銃で発砲される弾丸は事前にレナが付与魔法を施したミスリル製の弾丸であるため、回収を行うときはレナの意思に従って弾丸を引き寄せる事が出来る。壁にめり込ん弾丸がゆっくりと動き出し、そのまま甲冑の頭上を通過しようとした瞬間、唐突に甲冑の兜の目元の部分が怪しく光り輝いて空中を移動していた弾丸を掴む。



『ッ……!!』

「うわっ!?動いた!?」

「誰か入ってるのか!?」

「そんなバカなっ……だって、あたし何も感じないぞ!?」



動き出した甲冑を見てコネコは戸惑い、未だに彼女の気配感知には何も反応は示されていない。甲冑の中に誰かが入っていたとしても気配を全く感じさせない時点で様子がおかしく、危険を察したレナは咄嗟に魔銃の弾丸を全て撃ち込む。



「皆!!離れてて!!」

「レナ君!?」



本能で危険を察したレナは弾丸を全て甲冑に打ち込むと、全ての弾丸は見事に的中した。しかし、どういうわけなのかロックゴーレム程度の硬度の魔物ならば貫通するはずのミスリルの弾丸は甲冑に触れた途端に勢いを吸収されたかのように止まってしまう。



「えっ!?」

「ど、どうしたんだよ兄ちゃん!?」

「まさか衝撃を……吸収した?」

『オオオオッ……!!』



全ての弾丸を防いだ、というよりは無効化した甲冑は人間が出せるとは思えないおぞましい咆哮を放ち、やがて全身から黒色の魔力を生み出す。それを見たレナとドリスはすぐに魔力感知の能力で相手が放つ魔力の正体を見抜く。



「こ、これは……闇属性の魔力ですわ!!闇属性の魔力を甲冑に纏わせています!?」

「そんな、これだとまるで俺の付与魔法と一緒じゃないか!?」

「はあっ!?じゃあ、あいつの正体はレナと同じ付与魔術師なのか!?」

「そんな馬鹿なっ……!?」

『オオオオッ……!!』



全身から闇属性の魔力を放出しながら甲冑は動き出し、それを見たレナは甲冑に闇属性の魔力が宿ったのを見て甲冑の中身が自分と同じ「付与魔術師」なのかと動揺を抱く。しかし、甲冑が放つ人間とは思えない咆哮に対して中身が本当に人間なのかと疑わざるを得ない。




――この時にレナは重力の勇者の絵本の内容を思い出し、子供の頃に読んだ絵本の登場人物の中で主人公である重力の勇者の次に印象深い相手が脳裏に浮かんだ。それは重力の勇者が戦った敵の一人で名前は「死霊騎士リビングアーマー」という存在だった。




死霊騎士は文字通りに人間ではなく、死霊ゴーストと呼ばれる霊魂が甲冑に憑依し、本来ならば肉体が存在しないはずの霊魂が甲冑と一体化する事で実体化を果たした怨霊だと絵本に記載されていた。


死霊の正体は必ずしも人間とは限らず、魔物や動物などの生物の場合でも死霊と化す事が多い。しかし、基本的には死霊に最もなりやすいのが生物としての意思が強い人間だと言われている。


絵本の物語の死霊騎士の正体もかつては重力の勇者の友人である騎士だと判明した。重力の勇者は死霊騎士になる前は友人でもあった相手を倒すしかなく、戦いには勝ったが心に深い傷を負った描写だったのでレナの記憶に残っていた。

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