第497話 希少種
――スケボを使用して魔法学園へと辿り着いたレナは医療室に向かうと、運がいい事にアイリも勤務中だったらしく、唐突に訪れたレナに驚くが彼が運んできた狼の治療を引き受けてくれた。
「……はい、これでもう大丈夫ですよ。2、3日もすれば元気になるはずです」
「良かった……ありがとうございます」
「クゥ~ンッ」
アイリは狼に彼女が調合した栄養剤を与えると先ほどよりも元気を取り戻し、机の上でくるまる。その様子を見て安堵したレナはアイリに礼を告げると、彼女は狼を撫でながらレナに尋ねた。
「いえいえ、別にこれぐらいならどうってことはありませんよ。それよりもレナさん、この狼を何処で捕まえてきたんですか?」
「何処でというか……街中に木箱に詰められて捨てられていたのを拾ったんです」
「捨てられていた!?こんな希少種の魔獣を捨てる人間がいるなんて信じられませんね……」
「えっ……希少種?」
「気づいてなかったんですか?この狼は絶滅危惧種に指定されている魔獣ですよ」
「ええっ!?本当ですか?」
「この狼は「白狼種」と呼ばれる極めて珍しい種族なんです。元々は「黒狼種」という種族だったんですけど、突然変異によって白い毛皮の狼が生まれたのが白狼種の誕生の切っ掛けだと言われています」
「黒狼種……」
ここでレナの脳裏にシノが飼育している「クロ」の事を思い出し、確かシノの説明によるとクロは黒狼種と呼ばれる種族だった事を思い出す。つまり、レナが救助した狼も元々はクロと同じ先祖の魔獣であるらしい。
外見に関してはこちらの狼の方が幼いが、毛皮の色以外は瓜二つなので元々は同じ種族だったという話も納得できた。しかし、どうして絶滅危惧種に指定されている狼が街中のしかも路地裏の木箱に詰められていた事にレナは疑問を抱く。
「でも、どうして絶滅危惧種指定されている狼が木箱の中に詰められていたんでしょうか?」
「そうですね、白狼種は冒険者であろうと手を出す事は禁じられている絶滅危惧種です。そもそも人里には近づかない存在ですし、特定の縄張りを作らずに転々と住処を移住する魔獣なので捕まえるのも難しいはずなんですが……こんな子供の白狼種が街中に放置されていたという時点で大問題ですよ」
「となると……やっぱり盗賊ギルド関連ですかね?」
「その可能性もあり得ますね」
街中に貴重な白狼種の子供が放置されていたという時点で真っ先に疑うとしたら盗賊ギルドであり、闇売買で希少種の白狼種の子供を売り捌こうとしていてもおかしくはない。だが、そうなるとどうして路地裏のしかも鍵も付けていない木箱の中に死にかけた狼を放置していたのかが気になった。
「ですけど、仮に盗賊ギルドが絡んでいるとしたらどうしてこの狼が死にかけていたのかが気になりますね。盗賊ギルドが絡んでいるとしたらこんな希少種をぞんざいに扱うはずがありません」
「じゃあ、盗賊ギルドが関わっていない可能性もあるんですか?」
「あくまでも可能性ですけどね、一番怪しいのは盗賊ギルドである事は間違いありません。まあ、私の方で今回の件はマドウ大魔導士に伝えておきますよ。希少種の白狼種を保護したと知ればすぐに動いてくれます」
「お願いします、ご迷惑をお掛けしてすいません」
「いえいえ、今度私の実験に付き合ってもらえば構いませんよ。この子はしばらくの間は私が預かっておきますね」
「ワフッ」
白狼種の子供をアイリに任せると、レナは頭を下げて医療室を後にした。一応は狼を発見した場所を伝えておき、後の事はアイリに任せるとレナは別れた3人と合流するためにスケボに乗り込む。だが、ここでレナは待ち合わせ場所を決めていなかった事に気づく。
肝心のデブリが行きつけの酒場の場所をレナは聞いていなかった事を思い出し、別れた3人が食事に向かっていたとしたら見つけるのは苦労しそうだった――
――後日、アイリは約束通りにマドウに報告を行い、白狼種の子供の件に関しては即刻調査が行われた。だが、結果としては白狼種の子供が街中に放置されていた件に関しては盗賊ギルドの仕業ではない事が判明する。
数日程前、とある盗賊が白狼種の子供を偶然にも発見して捕まえ、王都へと訪れた。彼は白狼種の子供を売り捌いて一儲けしようとしたが、王都の警備は以前よりも強化されており、盗賊ギルドの警戒のために普段以上に城下町を巡回する兵士が多かった。
盗賊は木箱に弱った狼を閉じ込めて自分は酒場で食事を取っていた時に他の人間ともめ事を犯し、結局は警備兵の屯所に連れ込まれてしまう。その後は牢獄の中に閉じ込められて外へ抜け出す事も出来ず、白狼種の狼は木箱に放置されたままだという。
レナ達が発見した木箱の狼は路地に何日も放置されていたわけではなく、その盗賊が捕まえた時から既に弱っていた状態だったという。レナ達と盗賊が捕まったのはちょうど入れ違いだったらしく、結局は白狼種の子供を捕まえたのは盗賊ギルドとも関わりを持たないただの小悪党だった。
この白狼種の子供はしばらくの間は魔法学園の方で管理する事が決まり、絶滅危惧種というだけはあってこのまま危険な野生に放つわけにはいかず、ある程度育つまでは学園側の方で面倒を見る事が決まったという――
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