第482話 ゴブリン亜種
「でやぁっ!!」
「ギャアッ!?」
「うわっ!?」
投げ放たれた槍がゴブリンの顔面を貫き、そのまま地面へと突き刺さる。結果としてゴブリンは絶命してレナの身は守られたが、死体の中に隠れていたゴブリンを見て全員が戸惑う。
「だ、大丈夫か兄ちゃん!?」
「う、うん……ミナのお陰で助かったよ。ありがとう」
「どういたしまして……ふうっ、レナ君が無事でよかった。カツさんとの指導で投擲術も学んでおいて正解だったよ」
ミナはレナが無事だったことに安堵すると、槍をゴブリンの頭部から引き抜く。その際に死体に隠れていたゴブリンに視線を向け、ある事に気づいた。
「このゴブリン……普通のゴブリンとは色が違わない?」
「あれ、本当だ……身体の色が赤い?」
倒されたゴブリンの様子を確認すると、通常種のゴブリンの体色は緑色に対してこちらのゴブリンの体色は赤色だった。体格に関しても普通のゴブリンよりも手足が長いが、身長の方はホブゴブリンほどの大きさではない。
このゴブリンがどうして死体に隠れていたのかは不明だが、レナの命を狙った事に間違いはない。そもそもコネコの気配感知に反応しなかったという時点で普通のゴブリンではない事は明白だった。
「おい、コネコ!!さっき気配は感じないと言ってたじゃないか!?危うくレナが殺されかけたぞ!?」
「ご、ごめんな兄ちゃん!!でも、本当にさっきまで何も感じなかったのに……」
「コネコさんを責めるのは酷です。僕も他の皆も気づく事が出来ませんでした……ドリス、このゴブリンに心当たりは?」
「いえ、ありませんわ。赤色のゴブリンなんて聞いたこともない……もしかしたら亜種の可能性があります」
「亜種?」
「ゴブリンが進化をすれば上位種のホブゴブリン、そのホブゴブリンがさらに進化すればゴブリンキングへと生まれ変わります。でも、このゴブリンの場合は明らかにホブゴブリンでもなければゴブリンキングでもない、全く異なる進化を果たしていますわ」
「つまり、どういう事なのかしら~?」
「分かりやすく言えば突然変異によって生まれた未知のゴブリン、もっと言えば新種のゴブリンですわ。恐らく、この大迷宮という過酷な環境に適応するために通常とは異なる進化を遂げたゴブリンかもしれません」
ドリスの説明にレナ達は頭部を貫かれたゴブリンに視線を向け、確かに戦闘力はともかく、コネコのような暗殺者の「気配感知」ですらも反応しないほど完璧に気配を殺していた。
もしもミナが助けなければ今頃レナは殺されていたかもしれず、赤色のゴブリンが落とした短剣をミナは拾い上げ、それを見て彼女は驚いた表情を浮かべる。
「これ、凄く研ぎ澄まされてる……最近手入れが行われたばかりみたい」
「おいおい、待てよ……じゃあ、このゴブリンは自分で短剣を研いだのか?」
「普通のゴブリンならあり得ませんわ。武器として人間の道具が使う事をあったとしても、その手入れまで行うなんて……」
「あの、ちょっといいかしら?」
「何だよヒリンの兄ちゃん、こんな時に……」
「いえ、少し気になることがあって……」
会話の最中、ヒリンは周囲の様子を確認しながら不安げな表情を浮かべる。彼女の態度にレナ達は疑問を抱くと、すぐにヒリンはある可能性を話す。
「……もしかしてだけど、まだこの死体の中に他に隠れているゴブリンがいるんじゃないかしら?」
『…………』
ヒリンの言葉にレナ達は呆気に取られるが、冷静に考えれば確かにその可能性はあった。先ほど、コネコは気配感知を発動させたとき反応がないと言っていたが、実際にはレナの傍の死体に隠れていたゴブリンが奇襲を仕掛けてきた。そう考えると他の死体にゴブリンが隠れていないという保証などなく、全員が背中合わせになって死体の様子を伺う。
――ここでレナは死体が大迷宮に吸収されず、取り残されている原因を思いつく。それは死体の下にゴブリンが隠れており、そのせいで死体は大迷宮に取り込まれることもなく残り続けているのではないかと推理する。そしてその推理を裏付けるように広間に存在する無数の死体から小柄で赤色の体色のゴブリンが次々と姿を現す。
『グッギッギッギッ……!!』
笑い声のような奇妙な鳴き声を上げて十数体の「ゴブリン亜種」が姿を現す。その光景を見たレナ達は冷や汗を流し、互いの背中を預けて警戒を行う。相手は明らかに普通のゴブリンではなく、決して油断はできなかった。
「こ、こんなに隠れていたのか……くそ、全然気づかなかった……!!」
「やっぱり、シノの奴も連れてくるべきだったかな……」
「今更言っても仕方ありませんわ。ここは皆で力を合わせて倒しましょう!!」
「あらあら……」
「……来るよっ!!」
『グゲゲゲッ!!』
ゴブリン亜種の群れが一斉にレナ達に向けて飛び掛かり、各々が別々の武器を振りかざしながら襲い掛かってきた。
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