第394話 イチノへ……

「けど、問題が一つありますわ……それは私達の馬車は飛ぶ手段を持っていません!!」

「あっ!?そ、そうだった……どうしようレナ君!?」

「ええっ!?俺に聞かれても……あの、浮揚石は余ってますか?」

『おいおい、勘弁しろよ。あの魔石がどれだけ手に入るのが難しいのか知ってんのか?』



飛竜を連れ出す事には成功したが、肝心の馬車に関しては浮揚石が存在しなければ浮き上がらせる事は出来ず、このままでは馬車を率いる事は出来ない。レナは念のために金色の隼が所有している浮揚石を分けて貰えないのかを頼むが、残念ながら金色の隼の方も余裕は無い。


実際の所は不要石の予備はまだあるのだが、今回の遠征を考えた場合は王都からイチノまで往復する事を考えても余分な不要石の持ち込みは出来ないらしい。



「申し訳ありませんが浮揚石に関しては我々の分だけしか用意していません。なので申し訳ないのですが、馬車をどうにかしない限りはミナさん達の同行は認める事は……」

「大丈夫ですわ!!それも計算してこれを用意しましたもの!!」



浮揚石がなければ馬車を浮かばせる事は出来ないのでミナ達の同行は諦めるしかないかと思われた時、ドリスが背負っていたリュックから特大の大きさの地属性の魔石を取り出す。


レナが所有している地属性の魔石よりも非常に大きく、店から持ち出してきたのか値札まで取り付けられていた。その特大の地属性の魔石を取り出したドリスは皆に見せつけてレナの肩を掴む。



「これを馬車に装着してレナさんの付与魔法で重量を消す事が出来れば、結果的には浮揚石と同じ効果を生み出せますわ!!」

「あ、なるほど!!その手があったか!!」

「そうだよ、兄ちゃんの魔法なら浮かぶ事だって出来るじゃん!!」

「でも、よくそんな大きな魔石を持ってきたな……」

「ええ、これはアリス商会が保管していた特性の魔石ですわ。後でダリルさんの方に請求書を回すのでよろしくお願いします」

「えっ!?俺が払うのか!?」

「ちゃっかりしてんな姉ちゃん……でも、これで問題はないよな兄ちゃん!?」

「なんか勢いに乗せて同行を認めようとしている気がするけど……うん、確かにこれなら問題ないと思う」



ドリスから受け取った魔石を確認したレナは頷き、これを馬車に装着させる事が出来れば長時間の付与魔法の維持は行える。しかし、浮揚石と違って馬車を操作するのはレナである以上、ミナ達を引率する役目はレナしか出来ない。



「皆、本当にいいの?下手をしたら死ぬかもしれないんだよ?」

『しつこいっ!!』

「はぐっ!?」



暗い表情を浮かべて本当に付いてくる気なのかを尋ねたレナに対して全員が彼の頭に拳骨を叩き込み、ここまでしたのに自分達を連れて行こうとしないレナに対して全員が決意に満ちた表情を浮かべる。



「何と言われようと僕は行くよ。友達の危機にじっとしている事なんて出来ないよ!!」

「あたしもだぞ兄ちゃん!!兄ちゃんとおっちゃんの故郷なんて軽く救ってやるぜ!!」

「僕もお前には色々と世話になったからな。というか、これ以上にぐだぐだいうと張り手を喰らわせるぞ……どすこいっ!!」

「私も一緒に行きますわ。例え、私一人だけが魔法科の生徒だとしても皆さんの事は親友と思ってますもの!!親友の危機に大人しくなんてしていられませんわ!!」

「ドリスの良い分がミナさんと被っているように思うけど……僕としても同じ騎士科で一緒に頑張って来たレナさんの助けになりたいと思っています」

「以下略」

「あ、ありがとう……シノだけなんか他に言う事はなかったのかと思うけど、俺も覚悟を決めたよ」



皆の決意を改めて思い知ったレナは彼等に頭を下げ、有難く彼等の好意に甘える事にした。感動はしたが涙を流す事はなく、これからも一緒に彼等と共に戦う事を決意してレナは拳を突き出す。



「皆、力を貸して!!」

『おうっ!!』



全員が拳を突き出すと重ね合わせ、今一度自分達の「絆」が深まった事を実感する。少し照れ臭いが、それでもしっかりと行動に示す事でより絆が深まるように思えた。


一方でレナ達の行為を見てブランとシュリはため息を吐きながらも馬車に乗り込み、他の三人も後に続く。シデの方は先にマドウが派遣した二人の魔術師が乗り込む馬車に移動し、ダリルも彼等と同じ馬車に向かう。



「あ~……もういいか?それで、お前等はその飛竜の馬車に乗って行くんだな?なら、俺達も勝手にさせてもらうぜ」

「……暑苦しい奴等だ」

「で、でも……ああいうのって、憧れませんか?」

『気持ちは分かる』

「あらあら~いいわね~ああいうの~」

「それでは私達も参りましょう」

「レナと言ったな……お前は良い仲間を持った」

『へっ!!気に入ったぜお前等、絶対に全員うちの組織に入れてやるからな!!』



金色の隼が派遣する3人の黄金級冒険者達も馬車に乗り込み、彼等の内の1日とは巨人族なのでこれで他に乗り込む者はいない。最後にミナが連れて来た飛竜と繋がった馬車に魔石を装着させると、レナは付与魔法を施す。



「よし、行こう皆!!」

「流石にこの人数で乗ると狭そうですわね……」

「デブリ兄ちゃん、乗っている間だけでもいいから痩せてくれよ……」

「無茶を言うなっ!!それに僕は戦う前に十分に腹に栄養を貯めておく必要があるんだ!!痩せたら力が半減するんだぞ!?」

「お母様にもっと大きな馬車を借りてくれば良かったですわ」

「まあまあ、文句は言わないで早く乗ろうよドリス」

「僕は運転があるから前に乗るね!!」



馬車の中にデブリ達は乗り込むと、飛竜を操作するミナだけは背中に乗り込み、レナも馬車に乗り込もうとした。だが、ここでレナは背中に身に着けているスケボに気付き、笑みを浮かべて付与魔法を発動させて地面に降ろす。



「それでは……出発します!!目的地は帝国の東北部に存在するイチノです!!しっかりと我々の馬車に付いてきてください!!」

『おおっ!!』

「「「ヒヒィンッ!!」」」

「シャアアアッ!!」



イルミナが命じた瞬間、馬車に繋がった3体の天馬が駆け出し、その後に飛竜が続く。10メートルほど走りぬくと、天馬は翼を広げて空へ向けて浮上する。その瞬間に車体に取り付けられていた「浮揚石」と呼ばれるひし形の魔石が光り輝き、天馬が引く3つの馬車が紅色の光を放つ。


浮揚石はどうやらレナの扱う「地属性」の魔石の一種だったらしく、馬車全体に紅色の魔力が広がると、重量を一気に軽減させる。その様子を見たレナは驚きながらも自分も付与魔法を発動させて馬車とスケボを浮上させ、共に飛ぶ。





――王都の上空に3体の天馬と、1頭の飛竜が浮かび、その後ろには4台の馬車が繋がっていた。そして最後尾にはスケボに乗り込んだレナが後に続き、遂に自分の故郷へ向けて出発した。




(今度は必ず、守って見せる)




数年前、まだ子供で何も出来なかったレナは自分の村を救う事は出来なかった。だが、今は昔とは違って力を身に着け、そして心強い仲間も手にした。イチノはレナにとっては第二の故郷に相応しく、今度こそ誰一人として大切な人を魔物に奪わせない事を誓って空を飛ぶ。


その姿は正にレナが幼少期に愛読していた絵本の「重力の勇者」の主人公を想像させ、正に今のレナは他人から見ればまるで本物の「勇者」のような存在へと見えるだろう。

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