第362話 ダリルの気遣い
――対抗戦を終えたレナ達は今日の所は疲れを取るため、本日分の授業は免除されて帰宅を許された。その一方で敗北したサブの弟子達は一週間の間は迷惑をかけた騎士科と魔法科の生徒の教室の掃除を言い渡される。
今回の敗北の件はブラン達にとっても何か思うところはあるらしく、この掃除の罰に関しては意外な事にすんなりと受け入れた。また、イルミナの方は今回の対抗戦を見て魔法学園の生徒の優秀さを再確認し、団長であるルイに報告を行う事を告げた。
対抗戦を勝利したレナ達はダリルの屋敷に戻ると、屋敷の中には豪勢な料理が用意され、既に祝勝会の準備は整っていた。どうやらダリルがレナ達のために用意してくれていたらしく、屋敷の中で乾杯を行う。
「それでは対抗戦の勝利を祝い……乾杯!!」
『乾杯!!』
レナ達はジュースが入ったグラスで乾杯を行うと、屋敷の中にいた傭兵や使用人も一緒に祝勝会を楽しむ。今回はレナ達も対抗戦で初めての勝利のため、嬉しくないはずがなかった(前回の対抗戦は途中で乱入者が現れたので勝敗はうやむやになった)。
「ぷはぁっ!!おっちゃんも気が利くなぁっ……あたし達のためにこんな料理を用意していたなんてな!!」
「がつがつむしゃむしゃっ……!!」
「で、デブリ君!!そんな勢いで食べたら皆の分がなくなっちゃうよ!?」
「駄目だ、無心で食べてる……まあ、料理はたくさんよういしてあるから大丈夫だとは思うけど」
「デブリの食欲を舐めたらいけない。放っておいたらこの家ごと食べ尽くす」
「僕はシロアリか!?」
「……というか、シノさんはここにいていいんですか?僕達はともかく、シノさんは授業があるのでは……」
「抜け出してきた。大丈夫、ちゃんと反省文は先に提出してきたから」
「何が大丈夫なんですか!?」
対抗戦に出場していないシノもちゃっかりと祝勝会に交じっており、彼女曰く授業を抜け出してきたという。勝手に学園から抜け出す事は校則で禁止されているのだが、先手を打って反省文を提出してきたというシノに誰もが呆れる。
最も今回はめでたいパーティーなので誰もシノがいても気にせず、彼女も陰ながらレナ達のサポートを行っていたので対抗戦の勝利に貢献していたとはいえなくもない。
「それにしてもナオ君の試合は惜しかったね。あの時、試合を止められてなかったらどうなってたかな……」
「……悔しいですが、先生方の判断なら従うしかありません」
「あたしは止めて良かったと思うぞ?あのまま戦ってたらナオの姉ちゃんだって大怪我してただろうしな」
「それでも僕は……戦いたかったです」
ナオに関しては対抗戦で不戦勝となった事に不満を抱き、やはり試合を途中で危険だからという理由で止められた事は納得していない様子だった。しかし、コネコの言葉にも一理はあり、あのまま試合を続行していればナオもブランも無事では済まなかっただろう。
対抗戦はあくまでも試合にしか過ぎず、死人が生まれるような結果は誰も望んではいない。その事はナオも理解しているので文句は言えないが、それでも彼は親友であるドリスの仇を討ちたかった。
「まあ、これであいつらも大人しくなるだろ。ナオだって再戦したければ合同訓練でブランの奴と戦えばいいだろ?」
「そう、ですね……」
「それにしても魔法科の奴等も大変だな、あいつらと上手くやっていけるのかな?」
「それは分からないけど、ドリスがなんとかしてくれるんじゃないかな。見舞いに行った時も「次こそは絶対に負けませんわよ!!」とか言ってたし……」
ブランに敗北したドリスは別に負けたからといって彼に恨みを抱いた様子はなく、むしろ超えるべき目標が現れた事で燃えていた。今現在は自宅にて療養中だが、明日には学校に戻ってくるだろう。
「それにしても久しぶりに思いっきり戦えたな!!これだったら週一ぐらいで対抗戦してくれないかな?」
「勘弁してくれ……そんな頻繁に魔術師と戦っていたら僕の身体が持たないぞ」
「何だよデブリの兄ちゃん、試合の時はあんなに格好良く戦ってたくせにびびったのか?あ、分かった。斬られそうになって怖くなったんだろ!?」
「びびってなんかいない!!刃物だろうが魔法だろうが僕に恐れる物なんかない!!」
「あ、それなら俺の新しい技を受けてくれない?実は最近、とっておきの奴が出来そうでさ。さっきの試合では使えなかったんだけど……」
「えっ!?い、いや……それはちょっと……そ、そんな事よりも、お前はあれをどうする気だ?」
レナの発言にデブリは冷や汗を流す中、話題を変更させるために彼は壁に立てかけられたレナの「鎖帷子」を指差す。
先の対抗戦でヘンリーの魔法を受けた時に破壊された代物であり、胸元の部分が大きく切り裂かれて使える状態ではなかった。
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