第312話 イヤリングの値段は……

『――続いてダリル商会様からの品物です!!あの伝説の聖剣の素材としても有名なオリハルコン!!そのオリハルコンを加工して作り出されたイヤリングです!!』

『おおおおっ!!』



競売の方では遂にダリルが持参した「イヤリング」の番を回り、招待客が盛り上がる。何しろ伝説の魔法金属であり、その知名度はヒヒイロカネにも勝った。今回の招待客の大半はこのオリハルコンのイヤリングを入手するために訪れたと言っても過言ではない。


レナは招待客の中に視線を向け、カツを探す。彼によると黄金の隼の目的はオリハルコンとヒヒイロカネであると聞いていたため、招待客として参加していると思っていた。しかし、予想に反してカツの姿は見えず、代わりに金色の隼の団長であるルイの姿を発見した。



『ではまずは金貨300枚から始めます!!』

「金貨500枚!!」

『おおっと!?いきなり500枚が出ました!!』



紹介された品物の中で最も高額な値段から競りが始まるが、真っ先にルイが手を上げて金額を提示する。周囲の客は彼女の姿を見て驚き、金色の隼も参加していた事に驚く。



「ぐぬぬっ……金貨600枚だ!!」

「こっちは650枚!!」

「680枚!!」

「700枚だ!!」

『さあ、どんどんと値が上がっていきます!!700枚!!700枚以上支払われるお客様はいらっしゃいますか!?』



貴族達も負けずに高額の金額を提示し始め、カーネは黙ったまま動かない。カーネとしては少し前に手に入れたはずのイヤリングを他の人間に競り落とされるなど屈辱でしかないが、彼は何故か静観する。


カーネの反応を訝しく思いながらもマドウはサブに頷き、マドウが彼をここへ呼んだのは自分と違い、彼が財産をため込んでいる事を知っているからだった。



「800枚じゃ!!」

『は、800枚!?800枚が出ました!!』

「おおっ……さ、サブ魔導士が動いたぞ」

「くっ……流石にこれ以上は無理か」



サブが800枚を提示すると他の者達は黙り込み、流石に金額の値段が値段だけに貴族達もこれ以上は手が付けられない様子だった。しかし、金色の隼の団長のルイが手を上げる。



「900枚!!」

『きゅ、900枚!?本気ですか!?』

「ぬうっ……ならば950枚じゃ!!」

「……1000枚!!」

『い、1000!?だ、大丈夫ですか?本当にそれだけの額をご用意出来るんですか?』

「ええ、問題ありません」



司会を務めるカーネの娘もルイの言葉に動揺し、念のために確認を行う。オリハルコンがいくら貴重と言えど、金貨1000枚を支払うのは異常な話であり、もうこれ以上は手を出せないのかサブはマドウに首を振る。



「申し訳ない大魔導士……流石にこれ以上は儂が破産する」

「いや、お主が謝る事ではない。このような事態を想定していなかった儂の落ち度だ。すまぬ……」

「折角伝説の魔法金属の研究が出来ると思ったのだがのう……」



マドウとサブはオリハルコンのイヤリングを諦めたらしく、その一方でカーネの元にオリハルコンが渡る事を阻止したと確信した。彼等の目的はカーネの元に貴重な魔法金属が届かぬようにするために競売に参加していた。


ルイが他の人間が黙り込んだ事で勝利を確信するが、カーネの娘は困り果てた表情でお周囲を見渡し、念のために確認した。



『え~……金貨1000枚が出ました。他に金貨を支払える方はいますか?』

『…………』



カーネの娘の言葉に全員が黙り込み、流石に集まった貴族や商会主もこれ以上の金額を支払うとなれば破産する覚悟を抱かねばならない。


日本円に換算すると約1億円の価値が付いたオリハルコンのイヤリングはルイの元に渡る事が決定しようとしたとき、一人の男が手を上げた。



「金貨2000枚だ」

『……えっ?』

「金貨2000枚!!」




――名乗り上げたのはカーネであり、彼はあろうことかルイが提示した金額の2倍の値段を宣言した。流石にこれは誰もが驚愕と動揺を隠せず、カーネは勝ち誇ったように鼻を鳴らす。




司会を務めるカーネの娘は自分の父親の言葉に呆気に取られ、身体を震わせる。なにしろ金貨2000枚などカーネ商会と言えど、途轍もない痛手な出費である。しかも今回の競売はゴマン伯爵が開催した事になっており、失った金は戻ってくる事はない。



『お、御父様……本気ですか!?』

「やかましい!!金貨2000枚だと言っているだろうが!!」

『わ、わわ、分かりました……で、では金貨2000枚以上の方はいらっしゃいますか?』

『…………』



司会は希望に縋るように他の人間に視線を向けるが、誰一人として声を上げる事も出来ず、ルイでさえも悔し気な表情を浮かべて黙り込む。


それを見たカーネは恍惚な表情を浮かべ、遂にレナ達が苦労して手に入れたイヤリングはカーネによって落札された――

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