第291話 巨人族のダイゴ
「あ、あれ……お前、意外と力があるんだな」
「そうですかね、腕相撲だと毎回負けっぱなしですけど……」
「嘘だぁっ!?」
ダイゴは自分の棍棒を受け止めたレナの言葉に動揺するが、一方でレナの方は掌に付与魔法を発動させる事で棍棒を持ち上げる。
ちなみに腕相撲に関してはレナが勝てる相手はせいぜいコネコぐらいであり、他の面子には勝った事はないのは事実だった(魔法を使えば全員どころか将軍であるゴロウでも勝てるだろうが)。
棍棒を掴んだ状態のままレナはダイゴに視線を向け、巨人族と相対するのは初めてだが、先ほどの繰り出した一撃をまともに受けていればレナの身は持たなかっただろう。下手をすれば死んでいてもおかしくはなく、早急にこのダイゴという巨人はなんとかしなければならなかった。
(巨人族は体格が大きいから人間よりも腕力も打たれ強さも桁違いだと聞いた事があるけど……けど、急所は人間と同じだってキニクさんが言ってたな。ちょうどいいや、ナオ君の技を参考にした「あれ」を試すいい機会かもしれない)
かつてレナは冒険者になる前にキニクの元で指導を受けていた時、彼から巨人族の特徴を教わっていた。キニクは巨人族とも戦った事があり、彼の経験談によると巨人族と人族の急所は全く同じらしく、そこを突けば人間でも体格や筋力に勝る巨人族でも勝てる可能性は十分にある。
棍棒を掴んだ状態でレナは意識を集中させ、まずは両足に力を籠めると同時にブーツに付与魔法を発動させる。そして棍棒を手放すと勢いよくブーツの魔力を解放させ、跳躍を行う。
「とりゃっ!!」
「うおっ!?」
「と、飛んだ!?」
「何だあのガキ!?」
ダイゴの顔面に目掛けて飛び上がったレナは右手に魔力を集中させ、ダイゴの大きな顎に目掛け掌を伸ばす。そして掌が触れた瞬間、掌の魔力を開放して衝撃を与えた。
「はああっ!!」
「あがぁっ!?」
『だ、ダイゴッ!?』
顎が外れかねない強烈な衝撃を受けたダイゴは後ろ向きに倒れ込み、そのまま屋敷の壁に衝突してしまう。顎を打ち抜かれたダイゴは脳震盪を起こしたのか意識を失ったようにそのまま屋敷の壁に背もたれする形で倒れ込む。
ナオの得意とする「発勁」を参考に即興で作り出した技だが意外にも効果は高く、巨人族を一撃で沈めた事にレナ自身も驚く。最もオリジナルの「発勁」は内側に衝撃を与えるのに対し、レナの攻撃は肉体の表面に直接に衝撃を与える技なので性質は少々異なる。
「いててっ……この技、手首を痛めるな」
攻撃を仕掛けたレナは手首を抑え、掌に触れた状態で衝撃波を生み出した事で影響が少なからず出てしまい、下手に威力を上げ過ぎるとレナにも負担が大きい技なので多用は出来なかった。
だが、一番厄介そうなダイゴを倒せたことは功を奏し、残りの金級冒険者達はダイゴが倒されたという事実に慌てふためく。
「そ、そんな馬鹿な……ダイゴが一撃でやられただと!?」
「ちょ、ちょっと!!あんたら、何とかしなさいよ!!」
「馬鹿野郎!!こういう時こそ、砲撃魔導士のお前の出番だろうが!!早く仕留めろっ!!」
「馬鹿言わないでよ!?こんな場所で魔法を撃ったらどれだけの被害が出ると思ってるのよ!?私、弁償なんて出来ないわよ!!」
「この役立たずめっ!!」
「何ですって!?」
「いい加減にしろ!!仲間割れしている場合かっ!?」
金級冒険者達は互いにレナに攻撃を仕掛けるように促すが、誰もが自分から戦おうとする人間はおらず、これが王都の冒険者なのかとレナは呆れてしまう。
(前々から思っていたけど、王都の冒険者はろくでなしばっかりだな……これなら俺の街の冒険者の方が立派だよ)
レナが所属していた冒険者ギルドの冒険者達は勇敢な者が多く、赤毛熊が現れた時は街の住民を守るために率先して動いていた。しかし、王都の冒険者は自己中心的な考えたの者ばかりである。
しかし、この状況で冒険者達が争ってくれる方が時間稼ぎには都合が良く、レナは相手が襲ってこないのであれば手を出さずに静観する。一方で冒険者達の言い争いは激化し、最終的には子供のように取っ組み合う。
「この野郎、魔術師だからって調子に乗るなよ!!」
「きゃあっ!?触らないでよ、この痴漢!!」
「誰が痴漢だ!!お前、もうすぐ40だろうが!!きゃあなんて可愛らしい悲鳴をあげるんじゃねえっ!!」
「何ですって!?私はまだ39才と11カ月よ!!」
「それ、ほぼ40才じゃねえかっ!!いい歳してそんな露出度の高い格好して恥ずかしくないのか!?」
「きぃ~っ!!ぶっ殺してやる!!」
「いいから落ち着け、まずは冷静になれって!!」
『うるさい禿頭っ!!』
「何だとごらぁっ!!殺すぞてめえらっ!!」
仲介しようとしていた冒険者も交じって3人の金級冒険者達の争いは激しさを増し、この様子ならばレナが何もしなくとも勝手に自滅するのではないかと思われた時、3階の窓からカーネが顔を出す。
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