第282話 ダリルの謎

「な、何だこれは……壁!?」

「いててっ……くそ、何だよいったい!?」

「そ、そいつらを捕まえろっ!!」



土壁によって屋敷の中に侵入を阻まれた浮浪者達を兵士達が取り抑え、その一方でレナは土壁を形成するが成功して安堵する。前よりも付与魔法の精度が向上したお陰か、以前よりも短時間で大きな土壁を作り出せるようになった。


地面を操作して盛り上げるだけではなく、土砂を圧縮させる事で硬度の方も硬くさせ、今のレナならばボアの突進だろうと耐え切れる土壁を作りだせるだろう。土壁によって門は封じられた事で外部の人間は中に入り込む事は出来なくなったが、ここでシノが異変に気付く。



「待って……あそこの窓、さっきまで開いてた?」

「えっ!?」

「嘘!?窓は全て施錠していたはずでは……!?」



屋敷の窓の一つが解放されている事に気付き、レナ達が警備を行っている間は全ての窓は確かに閉じ切った状態だった。


だが、何時の間にか一階の窓が一つだけ開け放たれた状態であり、それを見たレナ達は侵入者が入り込んだのかと慌てて駆けつける。



「まさか、ゴエモンが中に!?」

「あの一瞬で僕達に気付かれずに入り込んだんですか……!?」

「とにかく、中の確認をっ!!」

「ま、待て!!そこのお前達、我々を中に入れろっ!!」



窓が開かれている事に気付いたレナ達は即座に窓の方へ駆け込み、それを見た屋敷の外の兵隊は慌てて呼び止めようとするが、彼等に構っている暇はないのでレナ達は窓の中に入ろうとした。しかし、ここでレナはある異変に気付く。



(……どうやって鍵を開けたんだ?)



窓の鍵は内側に存在し、しかも窓ガラスを割って中に入った様子はなく、まるで最初から誰かが窓の鍵を開いて内側から押し開いたように見えた。ここでレナは既にゴエモンの内通者が屋敷の中に存在し、窓を内側から開いて招き入れたのかと考える。


しかし、屋敷の中に存在するのはレナ達とジオが信頼する配下の兵士と使用人しか存在しない。彼等が主君のジオを裏切るとは思えず、何者かが変装して誰かに成りすまして屋敷の中に潜入し、ゴエモンを引き入れる可能性もあるのではないかとレナは思いついた。




(落ち着け、相手は大泥棒なんだから窓の鍵を開く事だって難しくはないはず……ダリルさんのあの金庫も、簡単に開けたぐらいなんだから別に鍵を開けるなんてゴエモンにとってはたいして難しくもないはず……待てよ、そもそもダリルさんは何で空の金庫にわざわざ施錠なんてしてたんだ?)



ここでレナはダリルの行動に疑問を抱き、ダリルがイヤリングを金庫に入れようとした時に予告状が入っていたという言葉に引っ掛かりを覚えた。ダリルは確かに施錠していた金庫の中に予告状が入っていた。しかし、金庫の中身の方は何も入っていないと彼は言っていた。


ならば気になるのはダリルはどうして空の金庫に、しかも3つの鍵が施されている金庫を施錠していたのかレナは疑問を抱く。普通に考えれば中身が入っていない金庫ならば鍵を施す必要はない。別に鍵を掛けてはいけない理由もないが、わざわざ開くのも面倒になるのに空の金庫に3つの鍵を施す行為にレナは気になった。



(そういえばここまでの道中、ダリルさんはずっとイヤリングを握り締めていたな……ジオ将軍が預かると言っても拒否してたけど、今思えばダリルさんらしくない)



ダリルは普通の人間なので戦闘力は持ち合わせておらず、もしもゴエモンと対面したときは戦う術を持たない。なのでジオはゴエモンが現れた時、ダリルがイヤリングを所持していると危険なので彼の家の金庫で預かろうとする。


ジオの提案は別に妙な下心など抱いておらず、純粋な善意からの申し出だった。しかし、ダリルの方は頑なに拒否して彼の傍に居るからイヤリングは自分が所持したいと言い張る。レナも説得しようとしたがダリルは聞き入れず、結局はダリルの警護はジオが行い、二人は屋敷の中に同じ部屋で待機していた。



(さっきの男、あいつがゴエモンなのか?姿は見えないけど……何処へ消えた?)



ここでレナは鉄柵越しに煙玉を投げた男の事を思い出し、状況的に考えればあの浮浪者の恰好をした男の正体がゴエモンで煙玉を使用して門を開き、混乱に乗じて屋敷の中に入り込むつもりだったと考えるべきだろう。


しかし、肝心の煙玉はドリスの魔法によって掻き消され、その間に門の鍵を破壊されて開かれるという事態には陥ったが、レナの魔法によって屋敷の外の人間が入り込むのは阻止された。


門を解放されるという事態には陥ったが、時間的に考えても煙玉の煙幕に身を隠して外部から屋敷の中に誰かが入り込む事は出来なかったはずである。



(さっきの男がゴエモンだったとしても、俺達に気付かれず屋敷の窓に近付いて鍵を開けて中に入るなんて不可能だ。ずっと俺達は門に注意を払っていたし、第一にこの窓は内側から鍵を開けられている!!という事はまさか……!?)



ここでレナは最悪の想像が頭に思い浮かび、今までどうして気付かなかったのかと自分自身を殴りつけたくなったが、今は自分の推理が正しかったのかを確かめるためにレナは手を伸ばした。

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