第281話 煙玉

「邪魔をするな、ここから先は一般人の立ち入りは禁止だ!!」

「それはないでしょう!!あのゴエモンが現れるんですよ!?我々にはゴエモンの動向を掴み、それを世間に知らせる義務が……」

「そんな事はどうでもいい!!あいつのせいで俺は全てを失ったんだ!!隠れてないで出てこいっ!!」

「貴様等、邪魔をするのであれば逮捕するぞ!!」



屋敷の前に大勢の人間が集まり、徐々に騒動を聞きつけた街の住民も集まり始めていく。その光景を見てレナ達はまずい事態に陥ったことを理解し、急いで屋敷の中で待機しているジオの元へコネコが報告へ向かう。



「ちょ、これやばいんじゃないのかっ!?あたし、ミナの姉ちゃんの叔父さんに言ってくるぞ!!」

「あ、待ってコネコちゃん!!それなら僕も一緒に……」

「二人とも、勝手に持ち場を離れるのは……何だっ!?」



コネコが屋敷の中に入り込み、その後にミナも追いかけようとした瞬間、屋敷の裏側の方から爆発音と煙が舞い上がる。何事かとレナ達は驚き、シノが真っ先に跳躍して屋根の上へと移動を行うと、ジオの屋敷の近くの建物が火災が起きていることが発覚した。


火災が発生した建物は一つだけではなく、屋敷の近くに存在する建物の殆どから煙が上がっていた。だが、ここで様子がおかしい事に気づいたシノは注意深く建物の観察を行う。



「放火……!?」

「シノさん、何があったんですの!?」

「まさか、ゴエモンが現れたんですかっ!?」

「……分からない、だけど屋敷の近くの建物が次々と燃えている」



シノは建物の様子を調べると、火災は屋根の部分のみが燃えている事に気付き、元々は廃屋だったのか建物の中から住民が現れる様子はない。だが、屋敷から近い建物が発生した事で屋敷の門に集まっていた人間たちが騒ぎ出す。



「ご、ゴエモンだ!!ゴエモンが現れたんだ!!」

「くそ、そこを退け貴様等っ!!」

「あの野郎、何処に隠れてやがる……うおっ!?」



浮浪者、新聞記者、兵士の集団が我先にと屋敷の門を開いて中に入ろうとした時、一人の男性が飛び出して門の前に移動する。男は懐から何かを取り出すと、鉄柵の隙間から投げつける。



「喰らえっ!!」

「なっ……皆、逃げてっ!!」



屋根の上に居たシノは男が投げつけた物を見て目を見開き、地上に存在するレナ達に注意する。咄嗟にレナ達は投擲物から離れるために左右に分かれて駆け出した直後、投擲物が地面に触れた瞬間に煙を吹き出す。


投擲物から発生した白煙は屋敷の門を飲み込み、屋敷の前に集まった人間達の姿を覆い隠す。事前にシノから忍具の説明を受けていたレナ達は投擲物の正体が「煙玉」と呼ばれる道具だと気付き、いちはやくドリスが煙を吹き飛ばすために両手に構えて魔法を発動させた。



「風圧!!」

「おおっ!?」



ドリスの掌に風の魔力で形成された渦巻が発生すると、渦巻から発生した突風が白煙を消し飛ばす。風の力で煙を吹き飛ばす事には成功したが、何時の間にか屋敷の門が開かれていた。



「そんなっ!?門が開いてしまった!?わ、私のせいで……!?」

「違う、誰かが鍵を壊したんだ……けど、あんな短い間にどうやって」

「お、おい!!あれを見ろ、閂がまるで何かに斬られたような跡があるぞ!?」



解放された門を見てドリスは自分の魔法の力でこじ開けてしまったのか思ったが、デブリが門を封鎖する閂が刃物か何かで切り裂かれている事を指摘する。信じられない事だが外側から何者かが門の隙間から刃物を振り下ろし、金属製の閂を切断して門を開いたとしか考えられない。


これほどの芸当を出来る人間などゴエモン以外には考えられず、レナ達の脳裏に最初に門に駆けつけてきた浮浪者が思い浮かぶ。間違いなく、この男の正体が変装したゴエモンだと確信したレナ達は既にゴエモンが近くに存在する事に気付く。



「も、門が開いたぞ!!中に入れ!!」

「待たんか貴様等、勝手に将軍の屋敷に入るなっ!!」

「ご、ゴエモンが現れたのか!?何処だ、何処に居るんだっ!?」



浮浪者の集団が屋敷に乗り込もうとするのを兵士達が慌てて抑えつけ、新聞記者は周囲を見渡してゴエモンの姿を探す。このままでは屋敷の中に外部から人間が入り込んでしまい、そうなると変装したゴエモンの侵入を許す可能性があった。


どうにか開け開かれた門を閉じて彼等の侵入を防がなければならないが、既に兵士の捕縛を振り切った浮浪者が門の中に駆け込もうとしており、今からレナ達が駆けつけても彼等が敷地内への侵入を防ぐ事は出来ない。



「ゴエモン、出てきやがれっ!!」

「金を返せっ!!」

「何処に居やがるっ!!」



財産を奪われて正気を失った浮浪者の集団が門を潜り抜けて屋敷の中へ侵入を果たそうとした時、咄嗟にレナは左手に魔力を集中させて地面に掌を押し付ける。そして彼等が敷地内へ入り込む前に魔法を発動させた。



「ここは、立ち入り禁止です!!」

『ふげぇっ!?』



門の前の地面が盛り上がり、土砂の塊によって形成された「土壁」が解放された門を封鎖する。その結果、門に入ろうとした浮浪者の集団は土壁に阻まれ、勢い余って壁にぶつかった者は地面に倒れて気絶してしまう。

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