第256話 大迷宮の規則

「あ、そういえば皆さんに伝え忘れた事がありましたわ」

「え、何々?」

「いえ、「ミナさん」だけに伝えたいというわけではなく、ここにいる全員に一応は大迷宮で禁止されている規則の確認を怠っていました」

「規則、そんなのがあるのか?」



ドリスは大迷宮の経験者ではないデブリとナオの説明も兼ねてレナ達にも再確認を行う。大迷宮内に挑む冒険者は国が定めた注意事項を守らなければならず、簡単に言えば冒険者同士の諍いを起こさないための決まり事だった。



「まず、他の冒険者との戦闘は禁じられていますわ。危険な大迷宮内で同じ冒険者同士が戦う事は愚の骨頂、かといって冒険者同士で無理に協力する必要もありません」

「え?最初の方はともかく、どうして協力する必要はないの?」

「例えば過去にこんな事例がありますの。魔物に追い詰められた冒険者集団を他の冒険者が見かけて助けました。しかし、魔物を倒した後に素材の回収を行おうとした時、最初に戦っていた冒険者集団が自分達が戦っていたんだから倒した魔物は全部自分達の手柄だと言い張って問題が起きたという事件です。助けられた冒険者集団は自分達は助けて貰わなくても魔物を倒す事が出来たと言い張り、結局は有耶無耶に終わってしまったらしいですわ」

「それ、俺も聞いた事があるよ。基本的に魔物の素材の回収は倒した冒険者の権利だからね、だから戦闘中の冒険者を見かけた場合は必ず救援が必要かどうかを確かめる事にするんだよ。助ける代わりに素材を分配して欲しいとね」

「マジか……少し面倒だな」

「他にも魔物との戦闘中に最後の止めだけを他の冒険者が仕留める行為も禁じられていますわ。いくら魔物を倒したとはいえ、追い込んだ冒険者から横取りするような行為は許されないそうです」



大迷宮に挑む挑戦者に定められた規則は分かりやすく言えば「冒険者同士の争い禁止」「他者の獲物を奪わない」「助力、あるいは救援の場合でも相手の冒険者の確認を行う」この三つに分けられている。


こちらの規則が制定されたのは大迷宮が誕生した頃だが、律儀に規則を守るのは真面目な冒険者だけであり、昔は規則を破る冒険者の方が圧倒的に多かった。誰かが大迷宮内を監視しているわけでもないので規則を破っても惚けられたからだった。



「規則は制定された理由は冒険者同士で大迷宮の貴重な素材を奪い合うように争い事が多発していたそうですわ。しかし、規則が出来たとしてもそれを破る人間が後を絶たず、大きな問題になったそうです。そこで異界から召喚された勇者様がある魔道具を開発したのです!!」

「あの勇者がっ!?」



しかし、過去に異界から召喚された勇者が作り出した技術によってこの問題を解決される。勇者は冒険者が大迷宮に挑戦する前にとある魔道具を身に着けるように義務付けると、冒険者はしっかりと規則を守るようになったという。



「皆さん、大迷宮に挑む前に兵士の方から水晶札という物を貰いましたよね?」

「ああ、これの事か?」

「その水晶札には倒した魔物が記録する昨日があるんだよ。だから不正したとしても持ち帰った魔物の素材の点検を行う時、記録された魔物と素材が一致しない場合は事情聴取を受ける事になるよ。それと他の冒険者が使っていた水晶札を持ち帰っても記録が抹消されるらしいから不正は出来ないって」

「凄い魔道具ですね……ですが、勇者様の残した魔道具というのなら納得です」



水晶札のお陰で規則が守られるようになり、横取りを行ったとしても魔物の記録が調べられれば不正が発覚してしまう。


水晶札が製造されるようになってからは規則を破る人間は激減し、現在では規則を守る事が当たり前となっていた。



「この水晶札を失くすと魔物の素材を持ち帰っても兵士に没収されるので絶対に気を付けてください。特にデブリ君は脱ぐ癖があるので失くさないように気を付けてくださいまし!!」

「別に好きで脱いでいるわけじゃないぞ!?ただ、どうしても上着を着ていると落ち着かなくて……あれ!?な、ない!?僕の水晶札が!?」

「言ってる傍から何をしているんですの!?」



デブリは自分にが身に着けていた水晶札が存在しない事に気付き、先ほどの戦闘でデブリが上着を脱いだ時に身に着けていた水晶札が紛失したのではないかと考え、急いで戻る事にした。



「ご、ごめん!!すぐに戻ってくるから待っててくれ!!探してくる!!」

「あ、デブリさん!?単独行動は危険ですわよ!?」

「仕方ねえな、あたしも行くよ!!」

「物探しは得意」



デブリだけを先に行かせるわけにもいかず、足の早いコネコとシノも同行する。3人の後姿を見てドリスはため息を吐き、先ほどブロックゴーレムと戦闘を行った場所とはそれほど離れていないので見つければすぐに戻ってくるだろうと判断してレナ達は待つ事にした――

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