第253話 力士と格闘家の本領
「ゴオオッ……!?」
損傷を与えるには至らなかったが、3人の攻撃によってブロックゴーレムは怯ませる事には成功した。その隙を逃さずにナオは駆け出し、本来は前衛である自分が遅れた事に恥ずかしく思った彼は責めてもの償いとして全力の一撃を叩き込む。
(硬い外殻に覆われていたとしても、内側から攻撃すれば……!!)
格闘家であるナオはドリスのように魔法は使えず、ミナ達のように武器を扱いこなす事は出来ない。だが、彼女はあらゆる敵と戦う事を想定して日々鍛錬を行っており、ゴーレムのように硬い外殻で覆われた相手だろうと損傷を与える戦技を身に着けていた。
ブロックゴーレムに接近するとナオは力強く足を踏み込み、そして右手を前に突き出すとブロックゴーレムの右足に掌底を叩き込む。そこは先ほどミナが槍で攻撃した箇所であり、彼女の攻撃でほんの僅かに生じた罅割れにナオは戦技を発動させる。
「発勁!!」
「ゴアアアアッ!?」
外部ではなく、内側に衝撃を送り込む格闘家専用の戦技を発動させた瞬間、罅割れの内側から爆発するようにブロックゴーレムの右足が砕け散った。正確には膝の先の部分が砕け散ったのだが、体勢を崩したブロックゴーレムは慌てて右腕を壁に伸ばして転倒を免れる。
本来の「発勁」の戦技は相手の内臓を痛める程度の効果しか生まないはずだが、ナオは5才の頃から鍛錬に励み、10年近くの時を費やして習得した発勁は普通の格闘家よりも凄まじい威力を誇った。だからこそ先日の試合でデブリに弾かれた時は驚かされたが、本来の彼女の実力は国の将軍であろうと劣らない。
「流石ですわナオ!!この調子で追撃をっ……うひゃっ!?」
「な、何この音!?」
ナオが右足を破壊した事で気落ちしていたドリスも戦意を震わせ、追撃を加えようとした直前に通路内に振動が走る。何事かと全員が振り返ると、そこには上着を脱いで上半身が裸になったデブリが存在し、彼は相撲の「四股」を行う。
「ふんっ!!」
「うわっ!?」
「嘘だろっ!?」
デブリが足を踏み込むたびに振動が走り、いくら彼の体重が重いと言っても異様なまでの強さの震えが床や壁や天井にまで走る。しかも四股を行う度に振動は増してデブリの身体が発熱したかのように汗が蒸気と化す。
レナ達と一緒にいるので地味に思われがちだが、デブリはナオと互角に渡り合う程の実力者であり、当然だが彼の力も将軍級を誇った。対抗戦では相性が悪い魔術師に敗退してしまったが、相手が魔術師でなければデブリが恐れる理由はない。
ブロックゴーレムを見た時は驚いたデブリであったが、すぐに戦意を奮い立たせるように四股を行う。力士の称号を自覚してからデブリは毎日のようにこの四股を行い、足を踏み込ませる度に彼の集中力が研ぎ澄まされる。
「はっけよい……残ったぁっ!!」
「うおっ!?」
「早っ!?」
「ゴオオッ!?」
準備を整えるとデブリはブロックゴーレムの元へ駆け出し、その足の早さは通常時の彼とは比べ物にならず、一瞬にして距離を詰めるとブロックゴーレムの残された足に突っ込む。
あまりの衝撃に壁を支えにして立っていたブロックゴーレムの体勢が完全に崩され、足を掴んだデブリが壁際に叩き込む。
「どすこいっ!!」
「ゴガァッ!?」
『すごっ!?』
自分の何倍もの巨体を誇るブロックゴーレムをデブリは壁に叩きつけると、あまりの衝撃にブロックゴーレムの背中に亀裂が走った。その光景を見てレナ達は心底驚愕し、同時にやはり迷宮を構成する壁の方がブロックゴーレムよりも硬度も耐久力も高い事が判明する。
ブロックゴーレムを手放したデブリは即座に距離を取ると、全身に汗を流しながら息を荒げ、その場で膝を崩す。四股で極限まで集中力を高め、突進力を強化した反動で彼は一気に体力と精神力が削られてしまう。
「はあっ、はっ……つ、疲れた」
「ちょ、逃げろデブリの兄ちゃん!!殺されるぞ!?」
「ゴオオッ……!!」
動けないデブリに対してブロックゴーレムは怒りの咆哮を放ちながら腕を伸ばす。そのままデブリが掴まれそうになったが、すぐにミナとナオが庇うように前に出た。
「螺旋槍!!」
「崩拳!!」
「ゴアッ!?」
伸ばされた腕に対してミナの槍とナオの拳が叩き込まれ、勢いを殺す事に成功した。それを見てコネコとシノも駆け出すと彼女達は同時にブロックゴーレムの顔面に短剣と短刀の刃を放つ。
「乱切りっ!!」
「辻斬りっ!!」
「ゴオッ……!!」
顔面を攻撃するとブロックゴーレムは怯み、その間にデブリの腕を掴んでナオとミナが移動を行う。そして二人の魔術師がこの絶好の機会を逃すはずがなく、ドリスは合成魔術を発動させ、レナは最大の一撃を繰り出すために付与魔法の準備を行う。
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