第173話 共闘戦決着
開けた場所に移動したドリスに対してミナとシノは別々の場所で様子を伺い、彼女が傍に滞空させている火球へ視線を向ける。事前に二つの火球の破壊に成功してはいるが、まだ相手は三つも残している以上は迂闊に近づく事は出来なかった。
ミナは自分の両手を確認し、火傷の痛みはあるが十分に手は動く。次の攻撃でドリスを仕留めるにはどうすればいいのかを考え、そして自分が何時の間にか倒れているチョウの近くに居る事に気付く。
(あ、この人……杖に火属性の魔石が装着してる)
ドリスもチョウも火属性の魔法の使い手のため、どちらも杖には火属性の魔石を装着させている。別にその事自体は特になにもおかしくはないが、ミナは装着されている魔石に視線を向け、ある疑問を抱く。
(あれ?この魔石、こんなに大きかったっけ?)
魔法科の生徒との合同訓練の際、ミナは何度か彼等が訓練用で使用する杖を拝見している。訓練の際に魔法科の生徒に支給される魔石は品質が高くはなく、量産化されている魔石のはずだが、何故かチョウが所持している魔石は訓練で使用される魔石よりも大きく、磨き抜かれたように美しさを誇っていた。
ミナも普段から魔石を見慣れているわけではないが、観察眼が高い彼女は授業で生徒に配給される魔石とチョウガ所持している魔石の色合いが違う事に気づき、ここで自分の叔父の話を思い出す。
(そういえば前に叔父さんに良品質の魔石は見た目も煌めいて美しいとか言ってた気がするけど……それに授業で見かけた魔石よりも明らかに大きい)
杖を取り上げて魔石を確認したミナは疑問を抱き、今更ながらにドリスの方も先ほどの試合に出場したゴマンに関しても、二人が装着していた魔石が訓練に利用される物とは違う事に気付く。
最も気付くことが出来たのは観察能力が高いミナだからであり、一般人の目には魔石の違いなど簡単には見抜く事は出来ないだろう。それに今は試合に集中するために頭を切り替え、ミナはどのような方法でドリスを倒すのかを考える。
(あの火球を掻い潜ってドリスさんの所へ辿り着ければどうにかなりそうだけど……あ、そうだ!!)
ミナは火属性の魔石が取りつけられた杖をチョウから取り上げ、彼には悪いがこの杖を利用させてもらう事にした。相手の武器を奪って使ってはならないという試合の規則はないため、このミナの行動は咎められる事はない。
火属性の魔石はとある特徴を持っており、これを利用すればドリスの意表を突けると確信したミナは杖を持ち上げて姿を現す。
「そこですわね!!やっと姿を現しましたか!!」
「うん、僕はもう逃げも隠れもしないよ」
「ふふふ、良い度胸ですわね。玉砕覚悟で私に挑むつもりですの?」
言葉通りに堂々と姿を現したミナにドリスは右腕を構え、火球を操作しようとした時、彼女が手にしている杖を見て驚いた表情を浮かべる。
「そ、その杖は……!?」
「確か、魔石は魔法の力を強くする性質を持つけど、その一方で同属性の魔力に触れると暴発を引き起こすんだよね?前に授業で習ったけど……もしもドリスさんの火球がこの魔石に衝突したら大変なことが起きるんじゃない!?」
「はうっ!?」
図星を突かれたのかドリスの顔色が変わり、ミナは自分が傷つく事も構わずに魔石を装着した杖を掲げて彼女の元へ向かう。ドリスは慌てて逃げようとしたが、戦闘職の人間に足の早さで敵うはずがなく、一気に距離を詰められる。
接近戦に持ち込まれれば身体能力が上回る戦闘職の人間が圧倒的に有利なため、ミナの槍の範囲に入ればドリスは抵抗する暇もなく敗れるだろう。しかし、彼女も魔法科の生徒の誇りをかけて最後まで抵抗を試みた。
「はああっ!!」
「くっ、こうなったら……あうっ!?」
「油断大敵」
ドリスは一か八か、火球を操作してミナの所有する杖の魔石を巻き込まないように爆発させようとしたが、その隙に何時の間にか先回りしていたシノが足払いを行って彼女を転倒させる。そして追いついたミナが槍の刃先をドリスの首筋に構えて見下ろす。
「降参して!!僕たちの勝ちだよ!!」
「うっ……!?」
「この距離なら火球を爆発させれば貴女も巻き添えを喰らう」
至近距離にまで迫られたドリスは自分を見下ろすシノとミナに悔し気な表情を浮かべるが、やがて諦めたかのようにため息を吐き出し、自分の傍で浮かばせていた火球を消し去る。
「……認めますわ、私の敗北です」
「やった!!」
「貴女も十分頑張った、ナイスファイト」
『そこまで!!勝者は騎士科生徒、シノ選手とミナ選手じゃ!!』
監視水晶を通して映像を確認していたマドウはドリスが杖を手放した時点で彼女が降参したと判断し、試合終了の合図を行う。個人戦は敗北したが、共闘戦は見事に勝利を収めたシノとミナは手を合わせ、勝利を祝う。
一方で敗北したドリスは悔しい思いを抱く一方、自分が全力で挑んで負けた事は確かなので負け惜しみは言わず、二人の勝利を祝う。
「おめでとうございます。この試合は貴女達の勝利ですわ……ですが、次の団体戦は負けませんわよ」
「うん、僕達も絶対に負けないからね!!」
「ドリス、貴女は他の生徒とは違う。個人的には気に入った」
「ふふ、嬉しい言葉ですわね」
シノは右手を差し出すとドリスはその手を取って立ち上がると、映像を見ていた生徒達は拍手を行う。勝利したのはシノとミナではあるが、最後まで二人を相手に勇敢に戦ったドリスにも声援が送られ、残すは団体戦だけとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます