第136話 リッパー戦

「……死んだか、やはり警戒し過ぎたか」



崩壊した建物の瓦礫に埋もれて姿が見えなくなったレナに対し、リッパーは弓を下ろすとその場を立ち去ろうとする。


崩壊を聞きつけて街道の人間や警備兵が集まる前に早急に退散する必要があるのだが、瓦礫の山と化した敷地の方から物音が聞こえ、彼は咄嗟に振り返る。



「くっ……」

「ほう、まだ生きていたか」



リッパーは背後を振り返るとそこには傷だらけの状態のレナが瓦礫の中から姿を現し、頭から血を流しながらも瓦礫を押しのけてリッパーと向き合う。


瓦礫が落ちてきた寸前に「反発」を使用して頭上から落ちてきた瓦礫を払いのける事には成功したが、それでも無傷とはいえず、左腕の方は完全に折れていた。


レナは大きな瓦礫に右手を伸ばし、付与魔法を発動させて瓦礫を操作してリッパーに叩きつけようとしたが、それを予測していたかのようにリッパーは弓を構える。



「動くな!!お前が物体を操作する事は調査済みだ!!下手に動けばここで殺す!!」

「……今さっき、殺そうとしておいてよく言うよ。抵抗しなくても殺すつもりの癖に」



リッパーの見え透いた嘘にレナは悪態を吐きながらも右手を瓦礫から離すと、それを確認したリッパーは弓を構えたまま動かず、注意深く観察を行う。


レナの右足には瓦礫の破片が食い込み、立つことさえもきつい表情を浮かべていた。その顔が演技でない事をリッパーは見抜き、弓を構えたまま彼は考える。



(奴は両手だけではなく、足からも魔法を発動させる事が出来るはず……だが、これだけの距離があれば俺の方が攻撃が早い。それにどうやら片足も負傷しているようだな。出来れば殺さずに生け捕りすれば報酬を追加すると言っていたが……こいつは危険だ。まだ子供だが、決して侮れん)



脅迫状に簡単に騙されて訪れたレナに対してリッパーは最初は殺すつもりはなかった。しかし、路地裏へ到着したレナは即座に飛び道具を警戒して身を守る術を取り、更にリッパーの仕掛けた罠を掻い潜った。


まだ年齢は幼いが、この年で白銀級にまで昇格を果たしたという実績は侮れず、このまま彼を生かしておけばいずれ盗賊ギルドの脅威になり得る存在に成長すると可能性があった。


ここでレナを生け捕りにして依頼人を満足させるより、盗賊ギルドの敵となり得る存在を排除するためにリッパーは矢筒に手を伸ばす。



「……あの、一つ聞きたいことがあるんだけど、あの手紙の内容は本当なの?」



矢を取り出す前にレナに話しかけられたリッパーは動きを止め、未だに脅迫状の内容が本当なのかと不安を抱くレナに対し、彼は殺す前にせめてもの情けとして真実を伝える。



「安心しろ、あの手紙はお前を呼び出すためだけに書いた物だ。お前を調べた結果、あのような文章ならば真っ先にここへ一人で訪れると判断した上で用意した」

「あの手紙を俺が他の人間に見せないと思ったの?」

「……仲間が訪れて自分を助けると思っているのか?残念だが、それはない。この周辺は俺の部下に見張らせている。何かあれば合図が送られる手筈だ」



リッパーはレナが他の仲間に手紙の内容を伝える事も想定して部下を配置しており、仮にダリル商会の傭兵や警備兵が現れたとしても部下達を見張らせている以上は問題ないと判断した。


仮にこの場にミナやコネコが現れたとしても彼女達の実力ではリッパーには及ばず、仮にレナを含めた3人が襲い掛かってきても彼は返り討ちする自信は昼間に下がったのは街道には多くの人間が存在した事、騒ぎを聞きつけられて警備兵でも駆けつけてきたら面倒な事態になるので引いたに過ぎない。



「仮にお前が仲間を呼んだとしても部下が合図を送れば俺はいつでも逃げ切れる。一流の暗殺者ならば姿も見せずに逃げ切る事など容易い芸当だ」

「そう、けどあんたは勘違いしているよ。あんたは自分で思っているほどに一流の暗殺者じゃない」

「……なんだと?」

「こうして話している間に反撃の準備は整ったからさ!!」



レナは言葉を言い放つのと同時に右手を前に向けると、付与魔法を発動させて闘拳に重力を加え、リッパーに向けて射出させる。


以前に赤毛熊を倒したとき同じ方法で闘拳を撃ち込んだレナだが、リッパーはそれさえも予測していたかのように頭を下げた。



「その行動も予測済みだ!!」

「っ……!!」



闘拳を寸前で回避したリッパーは弓を手放し、短剣を引き抜いてレナに向かう。完全に退路を断たれたレナを確実に殺すためにリッパーは短剣を構えて突進するが、異様な気配を後方から感じて即座に右へ避ける。



「後ろかっ!!」

「なっ!?」



回避したはずの闘拳が背後から迫っている事に気付いたリッパーは身をかわすと、レナの意思で操作した闘拳がリッパーの頬を横切り、そのまま壁へ激突する。


レナは付与魔法を施した物体を自由自在に操作できる事も知っていたリッパーはレナの最後の反撃の好機を潰したと判断して短剣を振り翳す。



「これで終わりだ!!」

「ああ、終わりだ!!」



リッパーがレナの頭部に向けて短剣を投擲を行おうとした寸前、レナは腰に手を伸ばすと隠していた「魔銃」を取り出してリッパーに向けて引き金を引く。得体の知れない武器を取り出したレナに一瞬だけリッパーの反応が遅れてしまい、次の瞬間に彼は右肩に強烈な衝撃を受けた――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る