第73話 試験の希望者

――試験の申込を終えたレナとコネコは受付嬢の案内の元、試験場である冒険者ギルドの裏庭へ案内される。試験が始まるまでの間は裏庭の方にて希望者は待機する決まりらしく、既にレナとコネコ以外にも数名の男女が裏庭にて待機していた。



「へえ、まだ試験を受ける奴等が居たのか」

「ひゅうっ!!中々の可愛い子ちゃん達じゃねえか」

「…………」

「何だこいつ等……変な奴等ばっかりだな」

「こら、そういう事は口にしちゃ駄目だよ」



レナ達よりも先に待機していたのは少年が2名と少女が1人だった。少年二人組の方はどうやら双子らしく、同じ顔をしていた。一方で少女の方は槍を握り締めた状態で壁に背中を預け、精神を集中させているのか瞼を閉じたまま動かない。


双子の方は試験が始まるというのに余裕の態度でベンチに座り込み、どちらも茶髪でピアスを身に着けていた。片方は長剣、片方は槍を装備し、一般人ではなく貴族なのか二人の服装には紋章のような文様が刻まれていた。



「おい、そこの黒髪と金髪のお嬢ちゃん、試験が終わったら俺達と遊ばないか?」

「俺達、あの子に振られたばかりで傷ついてるんだよ。だから慰めてくれない?」

「はあ?何言ってんだこいつ等……気味が悪いな」

「お断りします。男性には興味ないので」

「あらら、手厳しいな」

「まっ、嫌ならしょうがないか」



自分の事を女性と勘違いして口説いてくる兄弟に対してレナは辛辣に当たり、コネコも気味悪そうに距離を取ると、双子は特に気にした風もなくあっさりと退く。


まだ試験開始には時間があるのかレナ達が訪れても試験官の姿は見当たらず、この間にレナはもう一人の少女に視線を向けた。



(……何か集中してるみたいだし、ちょっと近寄りがたい雰囲気だな。それにしてもあの娘の持っている槍、随分と変わった形の刃だな)





――壁際で瞑想を行う少女が握りしめている槍にレナは興味を惹かれ、彼女が握りしめている槍の刃先は普通の刃物ではなく、捻じれた刃のような形をしていた。


この世界には存在しないが削岩機の「ドリル」のような形状の刃物のため、普通の槍よりも違和感を感じられた。




(あんな槍、見た事ないな。ちょっと話しかけてみようかな……うわ、凄く綺麗な子だ)



槍が気になったレナは少女に話しかけようとすると、今更ながらに少女の容姿を見て驚く。少女は青みがかった銀髪を腰元まで伸ばし、年齢はレナ達とあまり変わらないはずだが随分と発達した肉体を持ち、身長もレナよりも10センチ近くは高い。


何よりも目立つのが大きな胸元に引き締まった腹部、それでいながら肉付きの良い臀部であり、本当に15歳を下回る年齢なのか疑問を抱くほどの発育が良い肉体をしていた。レナは隣に立つコネコと少女を見比べ、恐らく年齢は1、2才の差しか存在しないはずだが、二人の身体の差異を見てコネコの肩を叩く。



「……大丈夫、きっとコネコも大きくなるよ」

「おい、今あたしとあの姉ちゃんの何を比べた!?」

「あいてっ!?」



レナの冗談交じりの言葉に怒ったコネコはレナの背中を蹴りつけるが、少女は二人の騒ぎを耳にしているはずなのに反応を見せず、黙ったまま動かない。


その様子を見てレナは相当に瞑想に集中しているのかと思ったが、聞き耳を立てると少女の方から寝息のような音が聞こえた。



「……ぐうっ」

「あれ……もしかしてこれ、寝てる?」

「え、嘘だろ!?おい、姉ちゃん!!もうすぐ試験始まるぞ?」

「んんっ……ふぁっ!?」



どうやら少女は瞑想をしていたわけではなく、ただ壁に背中を預けて眠っていたことが発覚し、レナ達が慌てて起こすと少女は驚いて目を覚ます。



「え、ここって……あれ!?もしかして僕、また寝てたの?試験は?」

「本当に寝てただけかよ……変わった姉ちゃんだな」

「大丈夫ですよ、まだ試験は始まってません」

「そ、そうなんだ。良かったぁっ……あれ?君達誰だっけ?さっきまではいなかったよね……?」



少女は寝ぼけ眼を擦りながら初めて見るレナとコネコの顔を見て不思議そうに尋ねると、レナ達は自己紹介を行う。



「俺の名前はレナです。さっき、ここに来たばかりです」

「あたしはコネコだよ。こっちの兄ちゃんと同じく試験を受けに来たんだ」

「あ、そうだったんだ。そういえば随分と人が減ってるね……この調子なら次が僕達の出番かもしれないね」

「僕達?試験を受けられる人数とか決まってるのか?」

「えっと、最初に僕が来た時は30人ぐらい居たかな?それで先に試験を申し込んだ人たちが5人ぐらい連れていかれて、その1時間後ぐらいに次の5人が呼ばれていた気がするよ」

「という事は……一度に試験を受ける人数は5名、試験時間は1時間という事ですか?」

「ううん、そうとも限らないんじゃないかな?2番目に試験官に連れていかれた人達の場合は割と早く試験官の人が戻って来た気がする。なんでも全員が試験を辞退して予定よりも早く終わったとか……」



試験の内容は不明だが、少女によると最初の5人が連れていかれた時は1時間はかかり、、次に連れていかれた5人の場合は10分程度で終わったという。

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