第41話 不穏な気配
――レナ達はコボルトの討伐を終えて冒険者ギルドへ報告を行うと、受付嬢のイリナが素材の確認を行い、依頼者からの報酬とコボルトの素材の代金を支払う。
「……はい、確認しました。これが今回の報酬です」
「ありがとうございます」
「あたしの分はいらないよ、結局坊主だけで事足りたからね。というより、本当に同行する必要があったのか分からないぐらいにこいつはよくやった」
「そうですか……ちょっと待ってください、それってもしかしてバルさんは黙って見ていただけという事ですか?」
「あ、やべっ……」
イリナはバルの言葉を聞いて青筋を浮かべ、最初にバルに同行すると聞いたときは、彼女はバルがレナの護衛のために付いていったと思っていた。
しかし、実際は本当にただ付いて行っただけで何もしていないという事にイリナは静かな怒りを抱き、バルはどのように言い訳しようかと焦ると、レナが慌てて口を挟む。
「そんな事ありません、師匠の助言のお陰でコボルトは倒せましたから……」
「そ、そうさ!!」
「レナ君……貴方は本当にいい子ね」
バルを庇うレナに免じてイリナは今回だけは見逃し、改めて書類を確認して現在のレナの評価点を報告を行う。
「それはそうと、レナ君の評価点が今回の依頼で50点に到達しました。最初に薬草採取やボアを討伐した時の評価点が大きかった事も理由だけど、この調子ならすぐに100点を迎えるのも難しくないと思います。だけど、無理して評価点を集めるために依頼を受け続けるのは駄目よ。自分の体調をしっかりと管理して適度な休息も取らないとね」
「あ、はい……」
「まあ、この坊主ならすぐに銀級に昇格するさ。それにしてもこんなガキが頑張ってるのに、未だに銅級から昇格しないで生活している奴等は恥ずかしくないのかね。冒険者になったのなら上の等級を目指そうという気概はないのかね?」
『うぐっ……』
昼間にも関わらずに酒浸りになっていた銅級冒険者達はバルの言葉に罰が悪そうな表情を浮かべ、このままでは新人のしかも未成年の冒険者に先を越されると焦った冒険者達は慌てて掲示板へ向かう。
もしも先にレナが銀級にでも昇格すれば先輩としての立場も危うくなり、それを見越してバルは彼等を煽る。
報酬を受け取ったレナはこれで当面の生活費どころか、半年分は暮らしている資金を手にした。最初は不安だった冒険者の仕事も大分慣れ始めたが、レナの目的は冒険者として大成する事ではなく、村に住み着いたゴブリンを殲滅である事に変わりはない。
(冒険者になって本当に良かった。色々な魔物と戦って経験は積んだし、前よりも魔法の力を上手く扱えるようになった。この調子で頑張ればいつかはきっと……)
村を支配したゴブリンを殲滅するためにレナは実力を身に着け、この調子ならば今年中に村へ取り戻す事が出来るのではないかと考えた時、玄関の方から慌てた様子で数人の銅級冒険者が駆け込む。
「お、おい!!そこを退いてくれ、急患なんだ!!」
「すぐにアイリさんの所へ連れて行かないと!!」
「ん、どうしたんだお前等……なっ!?」
建物の中に入り込んできた冒険者全員が負傷しており、全員が出血が激しく、そして凹んだ盾を背負う男性を4人がかりで運び込む。彼等は急いで治療室のアイリの元へ向かい、その様子をレナ達は驚いた表情で見送る。
「おいおい、一体あいつら何が起きたんだい?」
「あれは……赤蛇の冒険者集団パーティですよね。しかも運ばれた人は盾騎士の称号を持つガイルさんじゃ……」
冒険者集団とは文字通りに冒険者同士で手を組み、行動を共にする集団である。冒険者同士で組む事は別に珍しくはなく、依頼の達成時の報酬は分配になるが、大人数で動く事で危険度は減るため、基本的に実力が未熟な者が多い銅級冒険者達は他の冒険者と組んで行動を共にすることが多い。
駆け込んできた冒険者達はイリナによると「赤蛇」と名乗る冒険者集団らしく、銅級冒険者の中でも古株で銀級へ昇格間近の冒険者も存在した。
銅級冒険者の中でも実力は上位に位置するが、そんな彼等全員が怪我を負い、しかも冒険者集団のリーダー格である「盾騎士」と呼ばれる称号持ちの冒険者が大怪我を負っていた事にバルは表情を険しくさせる。
「あいつらがあれほど大怪我を負わせる相手がいるなんて……医療室に向かったね、ちょっと事情を尋ねてくるよ」
「わ、私も行きます!!」
「あっ……」
バルとイリナは彼等から事情を尋ねるために医療室へ向かい、残されたレナは二人を見送る。だが、先ほどの冒険者達の事が気になって家に帰る事も出来ず、二人が戻ってくるまで待機する事にした――
――それから1時間後、冒険者ギルド内では大勢の冒険者が集まり、宿舎で休んでいた冒険者達も叩き起こされて強制的に集結させられる。そしてレナは初めて相対する冒険者ギルドの代表である「ギルドマスター」が姿を現す。
ギルドマスターは小髭族のように長い髭を伸ばした白髪の老人だが、身長や体躯はバルにも劣らず、昔は金級の冒険者として名を馳せていた「キデル」という名前の男性だった。
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