第29節・神の子


 ロイたちは洞窟から出ると言葉を失った。


 砕けた"聖域"の門。

ドス黒い血溜まりに斃れた"守護者"たち。

そして全身に傷を負い、片膝をついたガイ。


 すぐに武器を取り出すとガイのそばに駆け寄り敵と向かいあう。


「あら? 中からぞろぞろと。羽虫がまだこんなにいたのね」


 そう言ったのは少女だ。

白い肌に踵まで伸びた銀の髪。

瞳は金色に輝き小柄ながらも人を圧倒する気配を持っている。

この容貌、そして人とは思えない圧。

こいつら……。


「……魔人か?」


「はあ? 魔人? あんな出来損ないなんかと一緒にしないでよね! アタシたちは"真なるヒト"、"神の子"よ」


 "真なるヒト"?

それはどういう意味だろうか?


 相手を警戒しながらガイに「立てるか?」と訊ねると彼は「当然だ」と立ち上がった。


「気を付けろ。奴ら尋常ではないぞ……」


 ガイの言葉に無言で頷く。

奴らから感じる威圧感はかつて"蛇"の使徒と対峙した時よりも遥かに上だ。

あの金色の瞳に見つめられるだけで腰が引けそうになる。


「ドライ、私は女二人を貰うわ。アンタには男をあげる」


「承知した」


 ドライと呼ばれた大男が大剣を振るった直後、轟音と共に漆黒の稲妻が一直線に放たれる。

それを咄嗟に散開して避けると少女の方がミリとユキノの前に、そしてドライが此方の前方に飛び出してきた。


(……分断されたか!!)


 ドライが大剣を構えるだけで大気が振動する。

なんという圧力だ!

まるで全身に錘を着けられたかのような感覚。

この敵と向かい合うと息をするのも苦しくなってくる。


「これは……文字通り死ぬ気でやらんとマズそうですな」


 ヘンリーの言葉に無言で頷く。

ガイも双剣を構え、慎重に相手の出方を伺った。


「良き闘志なり。我が名はドライ。さあ、モノノフよ!! その力、存分に見せてみるが良い!!」


 ドライの言葉と同時に大地を蹴り、敵に向かって突撃を開始するのであった。


※※※


 弓を構えたまま唾を呑む。

さっきから冷や汗が止まらない。

この白い少女から放たれるさっきは此方の心臓を鷲掴みにしているかのようだ。


「フフ……。始まる前から怯えちゃって。可愛いわねぇ。ねえ? アンタはどんな声で啼いてくれる?」


「この、悪趣味女!!」


 矢を放つと少女はその場から一歩も動かず指で矢を掴んだ。

そして口元に笑みを浮かべた瞬間━━消えた。


 一瞬で少女の姿が見えなくなり次の瞬間にはわき腹に凄まじい衝撃を受けた。


「が……!?」


 蹴られた!?

何が起きたのか全く分からなかった。

地面を転がり、口から血が出る。


「ミリ様……っ!!」


 ユキノが此方に駆け寄ろうとすると再び少女の姿が消え、ユキノの背後に回り込んでいた。

ユキノは咄嗟に身体を捻り、振り返ろうとするがそれよりも早く少女の打撃を左腕に喰らって吹き飛ぶ。


 速い。

いや、速いなんてもんじゃない。

相手の動きは全く見えなかった。

敵の動きは此方の視覚よりも遥かに速く、察知することができない。


「おっそいわねぇ! 私が手加減してなかったらアンタたち死んでたわよ」


「……手加減……ですって!」


 ユキノと共にゆっくりと起き上がる。

あの速度で、あの攻撃力で手加減しているというのか!!


 相手に背を向けないようにユキノと合流し、「そっち、大丈夫?」と声を掛ける。

ユキノは頷くと苦無を構えて敵を睨みつける。

此方も弓を構えて敵に向けると敵は「へえ」と感心したように頷く。

「根性はありそうじゃない。どいつもこいつも最初に痛めつけたらすぐに心折れちゃってつまらなかったのよねぇ」


 直後、ユキノと共に宙を舞っていた。


(……は?)


 何が起きたのか分からない。

どうして今、私たちは宙に浮かんでいる?

上方を見ると少女がおり、彼女は無防備になっている私に蹴りを叩き込んできた。

それにより背中から地面に激しく叩きつけられ、声にならない悲鳴があがる。


 そして一瞬視界がブラックアウトし、次に視覚が戻ってきた時には眼前に少女の踵が迫っていた。


※※※


 ユキノは自分が放り投げられたことに気が付くと背筋が凍るような感覚を得た。

敵の動きが全く察知できなかったのだ。

投げられたことにすら気が付かず、いまこうして無防備に宙を舞っている。


 隣で同様に放り投げられたミリが蹴りを喰らって地面に叩きつけられたのを見た。


 地面に着地すると敵がミリの頭を踵落としで叩き潰そうとしており、咄嗟に苦無を投げる。

それに対して敵は苦無を片手で弾くと再び姿を消した。


 もはや直感だ。

直感で後ろに仰け反る様に後退ると喉元を敵の手刀が掠める。

敵の爪が肌をわずかに裂き、熱い感覚と共に血が流れたのを感じた。


「アンタの方が反応が良いわね。なら、先に潰してあげる!!」


(……目で追っては……負ける!!)


 この敵を目で追うのは無理だ。

視覚はかえって反応を遅らせると判断すると目を閉じ、敵の気を察知することに専念した。


 閉じられた視界の中、敵の気配が一瞬で背後に移った。

苦無を逆手に持ち振り返りながら攻撃を叩き込むが敵は再び瞬間移動に近い高速移動を行うと左側面に回り込んでくる。


(間に合わない……!!)


 体の旋回が間に合わない。

そう判断すると身を屈め、防御の姿勢を取る。

この敵の攻撃をどこまで防げるかは分からないが直撃するよりはマシだろう。


 敵の攻撃が来ると思われた瞬間にミリが矢を放ち、敵が後ろへ飛び退いて距離を取った。

敵の着地場所に即座に二発目が放たれると敵は僅かに驚き、矢を手で払って叩き落す。


「……アンタたち、面白いことをするわね。黒髪は私の気を追った。で、そっちのエルフは……」


「そんだけビュンビュン動きゃ、風で分かるのよ!!」


 この隙にと再びミリの隣に立つ。

そしてミリに「動きを追えますか?」と訊ねると彼女は頷く。


「風の流れで大体は。でも追えても反応しきれないわ」


 敵があまりにも速すぎるのだ。

移動や攻撃が放たれる方向が分かっても体が追い付かない。

ならば……。


「上手く連携して互いの隙を潰すしかありませんね」


「ちゃんと合わせなさいよ」


 互いに反応出来ないところを補い合ってこの敵に対抗する。

そう決断すると敵は暢気に体を伸ばすと「作戦会議終わったー?」と訊ねてくる。


「まあ、何をしようともアンタたちが私に勝つことは無理だけど……。全力で私を楽しませなさい!!」


 敵が動く。

それに対して此方も息を合わせて動き、駆け出した。


※※※


 たゆたう水に私は浮いていた。

世界はどこまでも暗く、私は水面に仰向けに浮いているのかうつ伏せに浮いているのか分からなくなる。

心の奥底まで水が入り込み、世界と私の境界が無くなっていくかのような感覚に陥っていく。


 私は誰だろうか?

リーシェ・シェードラン?

レプリテシアの器?

記憶喪失のゼダ人であるシア?

どれもが私であって私でないような気がする。


 心地よい。

このままこの闇に溶けて消えてしまいたくなる。


 瞼を閉じ、水が波打つ音に耳を傾けていると誰かの声が聞こえてきたような気がした。

知らない声。

知っている声。

私にとってとても大切な、思い出さなければいけない人の声。

私は……彼女を……。


※※※


 私は木に登り、地平線を眺めていた。


 青い空はどこまでも続き、遥か先でなだらかな丘と結合する。


 ここからは丘の上にある風車小屋が良く見え、私はゆっくりと回る風車を見るのが好きだった。


「……?」


 なぜだろう。

前もこんな風景を見たような気がする。

確かこの後は風が吹いて……。


 温かな春の風が吹き、草木の匂いを運んできた。

やはりそうだ。

私は”これを知っている”。


「こら! サボり魔!」


 凛とした澄んだ声。

私のよく知る人の声。

ずっと忘れていた人の声だ。


 木の上から下を見ると幼い少女が立っていた。


 ルナミア・シェードラン。

私にとって恩人であり、そして大切な”姉”だ。


「貴女、厩舎掃除の時間でしょう? ロイが━━」


「怒っていた?」


 私がそう言うとルナミアは目を点にしてから頷いた。


「貴女ねえ……。それが分かっているならサボらないの!」


「…………」


 私を見上げるルナミアの顔をじっと見つめる。

そういえば昔はこんな姿だった気がする。

黒く長い髪を風に靡かせ、金色の瞳で怪訝そうに私を見つめている。


「……ちょっと、人の顔を見てニヤニヤと。どうしたのよ?」


「ううん。昔はこんなに小っちゃかったんだなぁって」


「はあ? 小さいって、貴女もでしょうが」


 そう言えば私も体が小さかった。

きっと”この時代”の姿になっているのだろう。


 私は「そうだね」と言うと木から飛び降りる。

そして地面に着地すると辺りの景色が突然変わった。


「あれ?」


 木から飛び降りたら城の中にいた。


 私が良く知っている城。

そう、コーンゴルドの城だ。


 私は慌ててルナミアの姿を探すが彼女はどこにもいない。

瞬間移動した?

いや、これは……。


「時が経っている……」


 私の身体が成長していることに気が付いた。

この服、確か四年くらい前に良く来ていたやつだ。

ということは……。


「!!」


 私は駆け出す。

誰もいない廊下を掛け、ある部屋に向かう。


 義父の部屋だ。

私は義父の部屋の前に来ると深呼吸をし、それからゆっくりとドアをノックした。


『入りなさい』


 部屋の中から聞こえてくる声に鼓動が跳ね上がる。

ああ、この声……。

どうして私はこんな大切なことまで忘れていたのだろうか……。


 私はゆっくりと部屋に入るとそこにはベッドに腰かけた義父の姿があった。

彼は私を見ると優しく微笑み、読んでいる最中だった本を閉じる。


「おや、リーシェ。どうしたのかね? そんな泣きそうな顔をして」


「ずっと……忘れていたから。こんなに大切で、会いたくて仕方が無かったのに思い出さなくてもいいなんて思っていたから……」


 頬を熱いものが伝う。


 分かっている。

これは現実じゃない。

だってヨアヒム・シェードランは既にこの世にいないのだ。

私が記憶を失っている間にこの世を去ってしまった。

私は親の死に目に立ち会えないどころか彼のことを忘れてしまっていたのだ。


「……ふむ。座りなさい。落ち着いてからでいい。ゆっくりと話したいことを話しなさい」


 私は義父の言う通りに椅子に腰かけ、彼と向かい合う。

そして涙を手で拭うと微笑んだ。


「もう会えないと思っていた。思い出せないと思っていた。とと様、親不孝者の娘を許してください」


「許すも何も私は怒ってなどいないよ。私の為に泣いてくれるお前を親不孝者とも思わない。きっと、本当の私もそう思うだろう」


「……とと様」


 父がゆっくりと立ち上がり、私の頭を優しくなでてくれた。

それだけで心が破裂しそうになり、涙が溢れだしそうになる。


「むしろ謝らなければいけないのは私の方だ」


「どうして?」


「お前と、そしてルナミアには多くのモノを背負わせてしまった。お前たちが何事にも囚われず、自由に生きれる様にと考えいていた。だがそれは叶わず、私はこの世を去ったのだろう」


 父は結局娘たちに厳しい運命を選択させてしまったことを謝ってきた。

だがそれこそ謝る必要はない。

この道は私が私の意志で選んだ道だ。

それはきっと遠くにいるルナミアも同じだろう。


「とと様、教えて。とと様が私をあの日、あの暗い牢獄から助け出してくれたのは何故? 私のことを初めから知っていたの?」


 私の問いに父は微笑みながら首を横に振った。


「私はお前の中にいる私だ。お前が知らないことを私は言えない。だが、そうだな……。きっと私ならこうしただろう。お前が何者であれ私はお前を牢から助け出し、そして娘として愛したと」


 辺りの景色が白く、靄がかかったようになっていく。

私は慌てて椅子から立ち上がりとと様の方に行こうとすると彼は私を止めた。


「分かっているはずだ。ここはお前の記憶の中の世界。ありし日の残滓。己を取り戻すための過程だ。こんなところで足を止めてはいけない。お前は過去ではなく、現在を生きているのだから」


 父の姿が消えてく。

話したいことが色々ある。

城から出陣した後のこと。

”蛇”との戦いに勝利し、世界をどうにか救ったこと。

記憶を失ってから傭兵として生き、様々な人に出会ったこと。


 言えなかったことが沢山ある。

でもそれを全て語るのにはあまりにも時間が無さすぎる。

だからそう、私は一つ、一つだけ父に言うのだ。

これが例え私が作り上げた幻影だとしても、この言葉だけは言わなければいけないのだ。「とと様! 私は……とと様の娘で幸せでした!!」


 私の言葉に父は頷き、そして消えていく。

そして次の瞬間、私はまた時代を跳んだ。


※※※


 私は雲の上にいた。

ここも知っている。

恐らく”私”の記憶の終着点。

”大祭司”によって生み出された虚竜神の体の上。


 私の前には私と同じ顔をした少女がおり、彼女はじっと私のことを見つめている。


「レプリカ……じゃないんだよね?」


「ええ、そうよ。私は貴女の記憶を取り戻す過程で生まれた記憶の残滓。道案内人よ。貴女がここに来たということは記憶の復元は順調に行われ、最終段階に入りつつあるということ。でも最後の鍵が開かない」


「最後の鍵?」


 記憶の中のレプリカは頷く。


「あの日、私は貴女を助けるため一か八かの賭けに出た。貴女と私。二つで一つだった魂を分離させ貴女とクレスセンシアを遠く、安全な地に転移させたの。でも強引な分離は貴女の魂を傷つけ砕き掛けた。それを繋いだのがクレスセンシアなのよ」


「クレスが……」


 遠くにいるドラゴンを見る。

彼女は全身に傷を負いながらも誰かを守る様に眠っている。


「転移直後、魂が完全に砕ける前にクレスセンシアは己の命を━━魂を貴女に分け与えた。今貴女の命を繋ぎとめているのはあの子の魂なのよ」


「それじゃあクレスがずっと目覚めなかったのは……」


「魂を半分失ったあの子は深い眠りに落ちた」


 呼吸も鼓動もあるのにずっとクレスが眠っていたのは私の命を守るためだったのか……。

ならば私の魂が修復されれば彼女も……。


「いいえ。今のままではあの子は目覚めない」


「そんな! どうして!?」


 レプリカは悲しそうに眠っているクレスを見ると首を横に振った。


「あの子は自ら眠ることを……死を選んでいる。最期に貴女を守り、そして貴女が己の補助を必要としなく成った時、本当の眠りにつこうとしているのよ。それはきっと罪悪感。気が強くて人一倍責任感の強かったあの子が選んだ私への贖罪」


 クレスとフェリはレプリカを守護する竜だ。

己の主を守ることができず、そして先立たれた二人はどれだけ自分を責めただろうか。

主と共に死ぬ。

それを選んでしまうほどクレスはレプリカを慕っていたのだ。


「ねえ、リーシェ。これは私の我が儘。記憶の残滓が発するノイズ。でもお願い。どうか、あの子を助けてあげて。あの子は私と同じ。ただ一つの目的の為に生み出された命。己の生よりも他者の生に全てを捧げることを強いられた存在。でもそんなのって━━」


 「寂しいじゃない?」とレプリカは言った。

あの子は自分の人生を生きていない。

ただレプリカを守るという命令の為だけに生き、人のように振舞った。

そこに己の意志は無い。

本当にやりたいことを見つけていない。

それなのに罪悪感を抱いたまま死ぬなんて……悲しすぎる。


 私は無言で頷くと眠っているレプリカに近づいていく。

背後からレプリカの「その子をお願い。きっと頑固だから」と言う声に後押しされ私はクレスのすぐ傍まで来た。


 彼女が守っているものが何だったのかはすぐに分かった。

”私”たちだ。

まるで姉妹のように眠る私たち。

それを彼女はずっと守っているのだ。


「……ありがとう」


 私は眠る竜にそう声を掛けるとしゃがむ。

そしてゆっくりとクレスの額に触れると目を閉じ、こう呟くのであった。


「起きなさい。"私"のクレスセンシア。貴女はこんなところで死んでは駄目」


 直後、辺りの景色が消え私は誰かの記憶へと堕ちていくのであった。


※※※


 ミリとお互いに隙をフォローし合いながら敵と戦っていた。

この敵と戦っていて気が付いたことがある。

それはこいつはそこまで戦闘技術があるわけではないということだ。


 武芸の達人ならば己の動作ごとの隙を意識する。

例えば跳躍ならば着地の瞬間が隙になるため咄嗟に構えたり、更に小さく跳躍することで隙を潰す。


 己の隙を見せず、そして相手の隙を的確に突いていく。

それが戦いの基本だ。


 だがこの少女は全く違った。

動きの速さこそは凄まじいが全ての動作が単調であり、そして無防備なのだ。

ならばその隙を突けばいいと思うかもしれないがそうはいかない。

こいつは単調な動作で出来た隙を単調な動作で強引に潰してくる。

そしてその理不尽が成立するため付け入る隙が全くないのだ。


 ミリが放った矢を仰け反り避けた瞬間を狙って斬りかかるが敵は仰け反った体勢からまるで駒のように回転し回し蹴りを放ってくる。

それを咄嗟に後ろに跳んで避けようとするが敵は回し蹴りの態勢から強引に体をバネのように跳ねらせ、跳び膝蹴りを放ってくる。


「!!」


 苦無でどうにか敵の膝を受け止めるが凄まじい衝撃で思いっきり吹き飛ばされる。

ミリが牽制で矢を数本放つとすぐに傍に駆け寄ってきて弓を構えた。


「生きてる!?」


「ええ、まあ。戦い始めて数分で既に大分追い込まれていますが……」


 自分もミリも既にボロボロだ。

全身に裂傷や打撲による痣ができている。

息もあがり、肩で息をしながら敵と向かい合った。

対して敵は未だに傷一つ無く余裕の笑みを浮かべている。


「ここまで差があると笑えて来ますね」


「やけにはならないでよ?」


「当然です。差はあれど勝てないとは思っていませんから」


「そうこなくっちゃ!」


 そんな此方のやり取りに対して敵は呆れたように肩を竦めると姿を消す。

それを目で追わず気配で敵の動きを探り……。


(前進、止まった、跳んだ……上!!)


 咄嗟にミリと共にその場を跳ねるように飛び退くと先ほどまで立っていた場所に敵の踵落としが叩き込まれる。

地面は敵の攻撃によって砕かれ、大きな亀裂が入った。

あれを喰らっていたら即死していただろう……。


(ほんの僅か……僅かでも動きを止められれば……)


 一瞬でもいい。

兎に角敵に攻撃を当てられる隙を作れないだろうか?

敵が己の隙を別の動作で強引に潰すのを阻止できれば……。


 ふとミリと目が合う。

それと同時に一つの策が頭に思い浮かんだ。

かなり危険な策だがこの相手には手段を選んでいられない。


 再び来た敵の突撃をどうにか躱すとミリと合流し彼女にこう声を掛ける。


「━━一つ、策があります。起死回生の一打、やってみませんか?」


 その言葉にミリは強気の笑みを浮かべるのであった。

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