第27節・エルフの晩餐会


 晩餐会は城の大広間で行われた。

大広間にはいくつもの机が並べられ、様々な料理が用意されている。

どれも普段食べることが無いような豪華な料理であり、口にするのを躊躇ってしまいそうになる程だ。


 私たちは主賓席に通され、席に着いてから暫くするとレン女王の挨拶が始まった。

そして女王が挨拶を終えると晩餐会が始まり、ユキノが綺麗に料理を取り分けていく。

「どうぞ」とユキノから料理が盛り付けられた皿を受け取り、私はステーキにフォークを差すと口に入れる。


(……美味しい!!)


 口に入れた瞬間肉が溶けたかのような感触と肉の味が口の中に広がる。

傭兵団にいた頃にもステーキは食べたことがあったが同じ肉でもこうも違うのかと感動してしまう。


「これ、美味しい! ちょっと、リーシェ! こっちのサラダも美味しいわよ!!」


 ミリが料理にがっつくとユキノが呆れたように首を横に振った後、自分も一口肉を食べた。

すると彼女は僅かに笑みを浮かべ、「これは確かに……」と頷いた。


「なんというか……。こんな美味しい料理にお酒。俺たち、場違いというか……」


 ロイが苦笑するとワインの入ったゴブレットを持ったヘンリーが「主賓なんですから堂々としていればいいのですよ」と笑った。


「下手に縮こまっていては逆に失礼です。我々はこの晩餐会を楽しめばいい」


 それもそうだ。

この晩餐会は私たちの為にレン女王が開いてくれたもの。

そこで妙な遠慮をしていては彼女に失礼だろう。

と、いうわけで……。


「お? いい飲みっぷりですな!」


 ゴブレットに入ったワインを豪快に飲むとヘンリーが嬉しそうに笑う。

ワインも非常に美味しい。

町の酒場で出る安物のワインとは違い、香りが全然違った。

酒好きの団長にエルフの国で高級なワインを飲んだと自慢したら相当羨ましがるだろう。

そんなことを考えながら私は料理を次々と食べていくのであった。


※※※


 晩餐会が始まってから暫くするとヘンリーはワインの入ったゴブレットを片手にエルフの貴族たちの輪に入っていった。

彼曰く、こういった挨拶回りもとても大事なものだという。


 ドワーフの彼があっと言う間にエルフたちとの会話に花を咲かせているのを見ると流石は皇族と思ってしまう。

残った私たちは知り合いがいるわけでもないので席を立たず料理と酒を飲んでおり、ミリが少し紅くなった顔で「んー! 贅沢!!」とご満悦な笑みを浮かべる。


「ふん。城の料理人が腕によりをかけた料理だからな。美味くて当然だ」


 そう私たちに声を掛けてきたのは酒瓶のようなものを片手に持ったガイだ。

当然ながらガイも正装であり、彼は酒瓶をテーブルに置くと豪快に席に座る。


「うわ。アンタ、何しに来たのよ」


 ミリが露骨に嫌そうな顔をするとガイは「貴様には用はない」と偉そうに言った。

そしてロイの方を見ると酒瓶を突き出してくる。


「御前試合では不覚を取ったが、酒では負けん。貴様、俺と勝負しろ」


「……いや、勝負って。うわ、凄くキツイ酒じゃないか!? これ!?」


 ロイが酒瓶に入った酒の匂いを嗅ぎ仰け反ったので私も嗅いでみる。

確かにこれは強そうだ。

鼻の奥がツーンとする感じがした。


「どうだ。勝負するか?」


「いやいや。どうしてそんなことで勝負しなきゃいけないんだよ」


 ロイが首を横に振るとガイが勝ち誇ったような笑みを浮かべて「まあ、貴様の子供舌ではこの酒を飲めんだろうしな」と言う。

するとロイは「む?」と眉を顰め、自分のゴブレットに入っていたワインを飲み干すとガイの方に突き出す。


「そこまで言うなら飲んでやろうじゃないか! お前の子供みたいな喧嘩買ってやる!」


「はん! お子ちゃまが無理をするなよ!」


 いやいや。

私から見たらどっちも子供みたいな張り合いをしているんだけれども……。

でも、私もガイが持ってきたお酒が気になったのでゴブレットを前に出すと彼は少し驚いた顔した後、「倒れるなよ?」と不敵な笑みを浮かべる。


 いえいえ、こう見えても結構お酒には強いつもりなんです。


 そんな私たちの様子にミリは呆れたように肩を竦めると「私は新しいワインをもらって来るわ」と席を離れた。


 ガイはそんなミリに「おい待て」と声を掛けるとミリは怪訝そうな顔で「何よ?」と振り返る。


「……森でのこと、謝罪する。それだけだ」


 ガイの言葉に私たちは驚くと彼は不機嫌そうに顔を背ける。

そしてミリは苦笑すると「許してあげる」と言って新しいワインを取りに行った。


「どういう心境の変化だ?」


 ロイがそう訊ねるとガイはゴブレットに酒を注ぎながら「貴様らを女王陛下の客人として認めたからだ」と言う。


「ハーフエルフや貴様ら外の人間に対する感情は変わらん。だが、今日の試合で貴様を、貴様が信じる仲間を客人として認めてもいいと思った。ならば非礼を詫びるのは当然だろう」


「ガイ様は良く面倒くさいやつと言われませんか?」


 ユキノの言葉にガイは舌打ちすると自分のゴブレットに酒を注ぎ、一気に飲む。

それに続いて私たちもガイが持ってきた酒を口にするとロイが少し咽た。


「クク……どうする? やめるか?」


「い、いや。大丈夫だ!」


 本当に大丈夫だろうか?

このお酒、想像通りかなりキツイ。

だが味は澄んでいるため個人的には好きだ。


「ユキノも飲む?」


 そう訊ねると彼女は「では一口だけ」と私からゴブレットを受け取って一口酒を飲んだ。

そして味わうように口の中で転がすと「なるほど……」と頷く。


「ミカヅチの国にある清酒というものに似ていますね。飲みなれていない方には結構キツイお酒ですが……」


 ユキノがロイの方を見ると彼は「大丈夫だ!」と胸を張った。

そんな彼に「倒れても介抱しませんよ」とユキノは半目になる。


「……そういえば、ガイさんはどうして外の世界の人間が嫌いなの?」


 私がそう訊ねるとガイは「何故かだと?」と眉を顰めた。


「それは当然だろう。嘗て貴様らが我々にしたことを考えれば森のエルフで外の世界……とりわけアルヴィリア人を好む奴はおるまい」


「私たちがしたこと?」


「まさか、知らんのか? エスニア大戦の後、貴様らアルヴィリア人が我らにした裏切りを」


 私はロイやユキノの方を見るが二人とも首を横に振った。


「エスニア大戦の際に今のアルヴィリア人はエルフと協力しヴェルガ帝国と戦ったとは聞いておりますが……」


「そうだ。当時のエルフはヴェルガ帝国の人間至上主義によって激しい弾圧を受けていた。だから大戦が勃発するとドワーフや反帝国の人間と同盟を結んだのだ。当時のエルフたちはヴェルガ帝国に味方したドラゴン族と深緑の樹海で激しい攻防戦を繰り広げていたが一部の者たちは森の外で反乱軍と共に戦った。戦いは長きに渡り樹海では土竜王が討たれ、森のドラゴン族は去った。そしてヴェルガ帝国もアルヴィリアら英雄たちによって打ち倒され平和な世が訪れるかと思われたが……」


 ガイは酒を飲もうとするがゴブレットの中が空なことに気にが付き酒を注ごうとする。

するとユキノが「お注ぎします」と酒瓶を持って彼のゴブレットに酒を注いだ。

ガイがユキノの顔をじっと見たためユキノは首を傾げる。


「なにか?」


「い、いや。なんでもない。で、話の続きだが大戦終結後樹海にいたエルフたちに驚くべき知らせが入った。反乱軍がアルヴィリア王国を建国し、そして━━ゼダ人の残党と一緒に味方だったはずのエルフを虐殺したのだ」


 思わず息を呑む。

同盟を結んでいた筈のエルフを何故アルヴィリア人が攻撃したのだろうか?

いや、今なら理由は分かる。

それは恐らく……。


「━━━━初代アルヴィリアが仲間に討たれ、王位が簒奪されたことを隠蔽するため?」


「恐らくな。アルヴィリア人は血塗られた歴史を無かったことにしたのだ。そしてそれには同盟を結んだエルフが邪魔だった」


 私たちは沈黙する。

エルフが外界を拒絶する理由。

それは想像を遥かに超えるものであった。


「……でも妙ですね。エルフを排除したとしても初代アルヴィリアが討たれたことを快く思わない人間も多かったはず。誰一人として後の世代にその真実を残さなかったというのは不可思議ではありませんか?」


 ユキノの言葉にガイは「さてな」と肩を竦めた。


「どのようにして”歴史を書き換えた”のかは知らぬが今の王家は隠蔽をやり通してみせた。アルヴィリア王国も我らエルフラントも大戦により疲弊しきっており、暫くは一触即発の状態でにらみ合いが続いたという。そして先に回復したのは”全てを忘れた”アルヴィリアの方であった」


 私もユキノからお酒を注いでもらって口にする。

皮肉なことに大戦のお陰でアルヴィリアとエルフラントは互いを滅ぼし合う戦にはならなかった。

そのことに何とも言えない気持ちになっているとガイはため息を吐く。


「故に我らは決断を迫られた。強大な国になっていくアルヴィリアを憎み続けこれ以上国力差が広がる前に打って出るか、それとも鎖国し外界との繋がりを断つか」


「それで森を出たエルフと森に残ったエルフに分かれたのか」


 ロイの言葉にガイは頷いた。


「森を出たエルフはもともとアルヴィリアとの和解を望む者たちだったという。彼らは鎖国が決まった際にこの国から出て行ったそうだ」


 「さて、これが俺たちの歴史だ」とガイが言うと私はゴブレットの酒を飲み干して「エルフはまだアルヴィリア人を憎んでいるの?」と訊ねた。


「憎んでいる……が、我らも世代交代をしている。最も憎んでいた世代は森に還り、憎しみを継承した者たちは何時しか外界への感情を侮蔑と驕りへと変化させてしまった。この国の連中は己らを優れた存在と認識し、外界を侮っている。だからこそ今日の試合に意味はあったと思う。負けたのは非常に腹立たしいがな」


 外界の人間が強いと言うことを森のエルフたちには理解させられた。

そうガイは言うと大きくため息を吐くのであった。


※※※


 ガイの話しが終わると私たちは難しい話を止めて酒を飲み合った。

ロイとガイは競う合うように酒を飲んでいたためもう二人とも顔が真っ赤だ。

そんな二人にユキノは呆れると「お冷を貰ってきます。あと、ミリ様が戻ってこないので探してきます」と席を立ってしまった。

私はガイが持ってきた酒を自分のゴブレットに注ぐとガイが「それにしても……」と驚いたように私を見る。


「貴様……。大人しそうな顔をしてウワバミだったとは……」

「……え?」


「あ、ああ。お前、それ何杯目だ?」


 ロイの言葉に私は考える。

このお酒、美味しかったのでついつい何度もおかわりをしてしまっていたが今何敗目だろうか?

ロイが心配そうに「大丈夫なのか?」と訊いてきたので頷く。

意識もはっきりしているし大丈夫……だろう。

というよりも私は覚えている限りでは酒に酔ったことが無い。

傭兵時代も無理やり酒飲みに突き合わされて団員たちを酔い潰していた。


「まさかお前がそんな酒に強くなるなんてな……」


 ロイは苦笑すると「ああ、もう止めだ!」と酒を飲むのを止めた。


「なんだ、降参するのか?」


「ああもうそれでいい。なんだか馬鹿らしくなってきた」


 ロイがそう言うとガイも苦笑して「まったくだ」と酒を飲むのを止める。

それからユキノが去っていったほうをチラリとみると小声て私たちに訊ねてきた。


「あのユキノとかいう女。男はいるのか?」


「え? いや、そんな話しは聞いたことが無いが……。というかお前、人間の女に興味があるのか?」


「いや、無い。だがアレがエルフならばと思わざるおえない。はっきり言おう。あの女がエルフなら俺は口説いていた」


 わーお。

酔っているせいなのかもともとこういうことをはっきりと言う男なのか分からないが中々凄いことを言い始めた。


「やはり女はああやって淑女であるべきだな。先ほど、俺に酒を注いでくれた時の動作と気遣い見事なものであった」


 妙に偉そうにガイは満足げに頷くとロイが「いやいや」と首を横に振った。


「お前は表面的なものしか見えていない。いいか、ユキノはだな━━━━っ!?」


 ロイが突然背筋をピンと伸ばし慌てて辺りを見渡す。

この場にユキノは居ないが何か危険を感じたのだろうか?


「兎に角、仲間に妙な気は起こすなよ」


「ふん。だから人間の女に興味は無いと言っただろう」


 ガイはそう言うと「そろそろ自分の席に戻る」と立ち上がった。

その際にふらついたが彼は舌打ちするとそのまま歩いて去っていく。

あれ、大丈夫だろうか?

途中でひっくり返らなければいいが……。


 ガイが去るのと同時にロイも机に突っ伏すように倒れる。

どうやらこっちも限界が近いようだ。

そんな彼に微笑みながら私は残った酒を飲み干すのであった。


※※※


 酔っ払い二人の為に水を貰いに行く途中、ミリが大広間の隅っこの柱にもたれ掛かっているのを見つけた。

ミリの傍に行くと彼女はやや元気の無い笑みで「あ、ごめん。探させた?」と言う。


「ええ。まあ。酔っ払いが二人完成したので水を取りに来る途中で、なのですが……」


 辺りを見回すと露骨にエルフたちがミリから離れていることに気が付いた。


(なるほど……)


 彼女一人で行かせたのは間違いだったかもしれない。


「お酒も私が頼みましょうか?」


「うん……ごめん」


 申し訳なさそうに笑うミリに「お気になさらず」と言うと近くをエリが通ったため彼女に声を掛ける。

エリに水とお酒をテーブルに持って行ってもらうように頼むと彼女は頷き、それから居心地悪そうにしているミリの方を見る。


「……城の者が何か粗相を致しましたか?」


「え? あ……うん……。粗相と言うか……無視されたというか……」


 ミリが歯切れ悪くそう言うとエリは「まったく」と眉を顰めた。


「大事なお客様に不快な思いをさせてしまい大変申し訳御座いませんでした。後ほど私の方から厳しく言い聞かせておきます」


「あ、い、いいのよ? 別に怒っているわけじゃないし。その……慣れているから」


 ミリの言葉にエリは「ですが……」と眉を顰める。


「ミリ様。エリ様の言う通り城の者が客人に不快な思いをさせたのなら厳しく叱らなくてはいけません。メイドの行いは城の主の品位を左右しますので」


 此方の言葉にミリは「流石はコーンゴルドのメイド長ね」と苦笑した。


「元、です。今のメイド長はシェフィになっている筈です」


 そう返すとエリが「コーンゴルド……」とじっと此方を見つめてきた。


「あの……ユキノ様はつい先日までコーンゴルドにいらっしゃったので?」


「いえ。私が城を去ったのは一年半程前ですが……」


 首を傾げるとエリは「そうですか……」とやや落胆したように肩を落とす。


「……私の姉がコーンゴルドにいるはずですので。元気でやっているか気になりました」


「エリさんのお姉さまが?」


 ミリと顔を見合わせるとエリは首を縦に振る。


「我らエレ家は代々女王陛下に仕える者。我が姉は女王陛下の命を受けて外界の情勢を知るために森の外に旅だったのです。最初は一年で帰ってくるという話しだったのに手紙で『シェードラン辺境伯家は居心地が良く、また領主のルナミアを気に入ったため当分滞在する』と突然言い始めて……。姉さまのことを毎日心配していたというのにここ最近の手紙はルナミア様がどうだのと言った内容ばっかりで……おのれ、ルナミア・シェードラン!! 姉さまを誑かして……!!」


 最初に会った時にリーシェ様に対して妙に敵意を向けていたがまさかそれが理由だろうか……。

ルナミア様に対する敵意をむき出しにしてエリは語るがやがて落ち着きを取り戻し、「失礼いたしました」と頭を下げた。


 それにしてもルナミア様はエルフラント神聖国の者が入り込んでいることに気が付いているのだろうか?

まあ彼女なら気が付いていようがいまいがエリの姉を受け入れているのだろうが。


「……それにしても貴女方は不思議です」


「不思議?」


 ミリの言葉にエリは頷く。


「人間、エルフ、ドワーフ。種族も性別も違うのに共に行動している。我ら森のエルフから見れば奇異な一団です」


「んー、あんまり気にしてないわね。なんとなく気が合うから一緒にいるだけ。そうよね、ユキノ」


「ええ。私たちにとっては一緒にいることが普通になっておりますから」


「それが外の世界では普通なのでしょうか?」


 「残念ながら」と首を横に振る。

自分たちが他種族に対して偏見が無いのはコーンゴルドに居たからだろう。

亡きヨアヒム様やルナミア様のお陰でコーンゴルドの人々は共存が出来ているがそれ以外……特にメフィル領や現王家の直轄領等では他種族に対する激しい弾圧が行われている。

自由都市でも亜人種はやはり人間よりも一つ下に見られることが多かった。


「そうですか。そうであるならやはりこの国の開国は難しいのですね」


「あら? アンタは開国派なの?」


 そうミリが訊ねるとエリは当然だと頷いた。


「私は女王陛下に仕え支持する者。女王陛下が開国を望むのであればそれが私の望みです」


 エリの言葉に迷いや不服は感じられなかった。

きっと彼女はレン女王を心から慕っているのだろう。


「……さて、長話をしてしまいました。先ほどの件、お酒と水をテーブルにお届けいたします」


 エリが一礼して去っていくとミリに「では私たちも戻りましょうか」と言う。

そして二人で席に戻るとそこにはすっかり酔っぱらったヘンリーと突っ伏して動かなくなったロイ。

そして未だに顔色一つ変えずに酒を飲んでいる我が主がいるのであった。


※※※


 早朝。


 深緑の樹海に続く街道にドン・マルコの部下たちの野営地があった。

彼らは樹海からシアたちが出てこないか監視するために暫くの間滞在することになったのだ。


 樹海に入ったものは誰一人として生きては帰ってこれない。

あの娘たちは今頃樹海のエルフ共によって始末されているだろうがドンの許しがあるまでは帰還できないのだ。


 皆、弛んだ様子で酒を飲んだり騒いだりして時間を潰していたがその日の夜は違った。

野営地は静まり返り、むせ返るような血と臓物の臭いが広がっていた。


 そこら中に人だったものが飛び散っており、どす黒い血がテントや大地を汚している。

そんな地獄のような光景の中心で一人の少女が愉快そうに踊っていた。

両手で人の生首を掴んでおり、腕を振る度に辺りに血が飛び散る。

彼女は鼻歌を歌いながら一回転をすると「シュート!!」と手に持っていた生首を樹海の方へと放り投げた。


「━━情報を得られたのか? フィーア」


 フィーアと呼ばれた少女の背後にいつの間にかに白い鎧を着た男━━ドライが立っていたがフィーアは踊り続けながら「ええ、ちゃんと聞かせてもらったわよ」と笑みを浮かべた。


「この子たち、とーっても我慢弱い子たちだったから少し千切ったらすぐに吐いたわ」


 フィーアが踊るのを止め、近くの木箱の方を指さすとそこには上半身と下半身を千切られた男の死体が無造作に置かれていた。


「で、全員殺したのか」


「ふふ、当然じゃない。ちょっとした暇つぶしにはなったわ。ドライ、アンタもヤリたかった?」


「弱者を無駄に斬る趣味は無い」


 ドライがそう言うとフィーアは肩を竦めた。

そして近くの椅子に腰かけると樹海の方を指さす。


「やっぱり樹海に入ったみたいよ? もう死んでるかも」


「本当にレプリテシアの器ならそう簡単には死なぬ。さて、そうなると我らも樹海に行かねばならぬが……」


「あは! エルフって殺したことないのよね! 奴らの町を襲うんでしょう? 半分は私にヤラせてよね!」


「馬鹿者。我らの狙いはレプリテシアの器のみ。余計なことをするな」


 ドライに叱られフィーアは口を尖らせて「はいはい」と言った。

そして嗜虐的な笑みを浮かべると「それじゃあ、一匹捕まえて口を割らせる?」と言った。


「そうだな。それが一番だろう。さっさと任務を終え、帰還するぞ」


 ドライがそう言うとフィーアは立ち上がり身体を伸ばす。

彼女は金色の目を輝かせながら樹海の方を見つめ、「レプリテシアの器。楽しみだわぁ」と呟くのであった。

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