~深緑の樹海編~
第22節・大樹の都
私たちは馬車の中から周囲の様子を伺っていた。
暗い森の中、木々の間や枝の上にいくつものランタンが光っており、鋭い敵意が全方位から向けられていた。
私はもう少し外が見えないかと幌から顔を出そうとするとミリに頭を掴まれて引っ込められた。
「こら! 頭出さない! 奴らが問答無用で撃ってくるわよ」
「奴らって?」
「守人、ですよ」
私の質問に答えたのはヘンリーだ。
彼はやれやれと言った様子で荷台に座っている。
「守人は若く戦いの才能があるエルフたちで構成されていて、深緑の森に侵入した者を狩っているんですよ。奴らは森林戦のプロ集団。狙われたらどうしようもありません」
「私たちがまだ狩られていないのは何故でしょうか?」
ユキノの言う通りだ。
守人たちは最初に威嚇射撃をして以来動いていない。
さっきの話通りなら今頃私たちはハリネズミにされていそうだが……。
ヘンリーは「確かに妙ですな」と首を傾げるとロイが「思い切って馬車から出るか?」と言う。
「このままこうしていても埒が明かない。思い切って彼らに話しかけてみないか?」
「うーむ……。危険ですが、確かに馬車に隠れていてもどうにもなりませんしな」
「なら私が行くわ。この中じゃ一番マシでしょうし」
確かに。
ドワーフのヘンリーは出た瞬間殺されそうだし、人間よりも同じエルフの方が彼らも話しを聞いてくれるかもしれない。
私たちは顔を見合わせると頷き合い、ミリが荷台から飛び降りる。
馬車から出たミリに敵意が集中するが彼女は臆することなく森に向かって大声で話しかけた。
「森の守護者たちよ! 森に無断で立ち入ったこと、大変申し訳無かった! だけど、私たちに敵意も悪意もない!! すぐに立ち去るから見逃してくれないだろうか!!」
守人たちから返事は無い。
だが僅かに敵意が薄くなったような気がする。
私たちは幌の中から慎重にミリを見守る。
もし何かあったらすぐに飛び出して彼女を援護するためだ。
「……一人動きます」
ユキノがそう言うと木から誰かが飛び降りてきた。
獣の皮で出来た鎧を身に纏った男だ。
短い金の髪を持ち、引き締まった体は手練れだということが一目で分かる。
男はミリの目の前に着地するとじっとミリのことを見た。
「貴様、名は?」
「ミリ・ミ・ミジェ。森の外のエルフよ。貴方は……?」
「ガイ・ガ・ガレ。守人を束ねるものだ。それにしても森の外の”エルフ”……か」
ガイと名乗った男はミリを侮蔑の目で見ると口元に笑みを浮かべる。
そして彼女の腕を強引に掴んだ。
「い、痛い!! なにするのよ!!」
「黙れ! エルフだと? そのような言葉で俺を騙せると思ったか!!」
「な、なにを……。わ、私は……」
「貴様、ハーフエルフだろう」
「……ッ!!」
ガイの言葉で森が騒めいたような気がした。
ハーフエルフ。
人間とエルフの混血という意味だ。
ミリがハーフエルフだったことには驚いたがそれ以上に森の敵意が数段高まったことに驚いた。
「……これはいけませんな」
ヘンリーが眉を顰めるとロイが「どうしたんだ?」と訊ねた。
「森のエルフたちは純血主義です。人の血が流れたエルフは唾棄すべき存在と考えています」
「つまり、ミリ様は非常に危険な状況にあると」
私たちはそれぞれ武器を構える。
もしあの男がミリに危害を加えようとしたらすぐに飛び出してやる。
「そ、そうよ! 私はハーフエルフよ! それが何だっていうのよ!」
「汚れた雌め。貴様らハーフエルフは貴きエルフの血を汚した屑どもだ! エルフの血の方が強いところを見ると母親がエルフか。貴様の母親はとんだ売女だな!!」
「お前っ!!」
ミリが激怒し、ガイに蹴りを入れようとする。
それをガイは後ろへ跳んで躱し、鼻で笑った。
「何だ? 本当のことを言われて怒ったのか?」
「……今の言葉を取り消しなさい!! 母様を侮辱するなんて許せない!!」
「ハッ!! 売女を売女と呼んで何が悪い!!」
ガイが片手を上げると森に潜んでいるエフルたちが弓を構えたのが分かった。
私はすぐに幌から飛び出すとミリの前に立ち、片刃の折れた双刃刀を構える。
ロイたちもそれに続き、互いの死角を庇うように陣形を組むとガイが「ほう?」と笑みを浮かべた。
「ぞろぞろと出てきたものだ。アルヴィリア人にミカヅチ人、それにゼダ人。そして……おいおい、ドワーフまでいるじゃないか。汚れたハーフエルフにお似合いの面子だな」
ミリが憤り一歩前に出ようとするがそれをロイが止めた。
「ミリ、落ち着け。俺もあいつをぶん殴りたいが今は駄目だ」
ミリは悔しそうに顔を歪めるとそれから頷き、ロイの背後に移動する。
一触即発だ。
いつエルフたちが矢を放ってきてもおかしくない。
(どうする? どうしよう?)
もう思い切って全員倒すか?
いや、自由都市の戦いで消耗している状態でこれだけの量のエルフを相手にするのは自殺行為だ。
今はどうにか隙を見つけて逃げるしかない。
そう考えているとヘンリーが「やれやれ」と首を横に振りながら皆の前に出た。
「まったく、エルフラントのエルフは変わりませんな」
「おい! ヘンリーさん! 前に出ちゃ……」
「大丈夫ですよ、ロイ坊ちゃん。私に任せてください」
ヘンリーは堂々とガイの前に立つと笑みを浮かべる。
「ガイ・ガ・ガレ。ガレ家のエルフですな。代々優秀な守人を輩出している戦士の家系だ」
「ほう? ドワーフ風情が詳しいじゃないか」
「ええ、まあ。先代とはいろいろ因縁がありましてね。ガル・ガ・ガレは今どうしているので?」
ヘンリーがそう言うとガイがスッと目を細めた。
先ほどまでの不遜な雰囲気ではない。
ヘンリーを見定めるような鋭い目だ。
「貴様、何者だ?」
「いやあ、私はただの旅のドワーフですよ。と、言いたいところだが今回は立場を利用させてもらうとしましょう」
そう言うとヘンリーの顔から笑みが消える。
彼は森を見渡すと両腕を広げ、堂々と声を出した。
「エルフラントの民よ! 我らを殺したければ殺すがよい!! だが覚えておけ! 貴様らが矢を放つ時! それはアルヴィリアとガドアへの宣戦布告であると!! 今、貴様らが弓を向かているのはシェードラン辺境伯領ルナミア・シェードランの妹、リーシェ・シェードラン。そして……ガドア地下帝国皇帝"金剛石"のロズリックの弟、ヘンドリックであると!!」
「え? えぇ!?」
ヘンリーがガドア皇帝の弟!?
知ってたのかとロイたちの方を見ると彼らも驚愕の表情を浮かべ、首を横に振った。
ユキノだけは無言でヘンリーの背中を見つめており、彼女の目には複雑そうな感情が篭っていた。
「ガドア皇帝の弟だと? 貴様、ふざけた事を……!!」
「そこまでだ!」
森の中に凛とした男性の声が響いた。
ガイはその声に振り返るとすぐに跪き、森に潜むエルフたちも一斉に此方に敵意を向けるのをやめた。
声の主は長身のエルフの男性だった。
スキンヘッドに立派な顎髭を生やし、神官の法衣のような服の上に鎧を纏った男性は跪くガイを見ると眉を顰めた。
「手を出すなと言ったはずだが?」
「……は。神聖なる森に不浄なハーフエルフが入り込んだことが許せずお言葉を破りました。如何なる罰も受ける覚悟です」
「ハーフエルフ?」と男がミリの方を見るとミリはビクリと体を動かした。
あの男からはただならぬ雰囲気を感じる。
それに睨まれるように見られてたら竦むのは仕方ない。
男はミリを見たあと私たちを見回し、そしてため息を吐く。
「ベンドリック様。貴方は相変わらずトラブルを持ち込んで来ますな」
「いやいや、今回は不可抗力というか……。まあともかく、お久しぶりですなジル殿」
ヘンリーの言葉にミリが「ジル!?」と驚いた。
有名な人なのかと訊ねるとミリは首を縦に振る。
「ジル・ジ・ジレ。エルフラント女王の右腕とも言える人物よ。森の軍隊を総括している神官騎士団長。まさかお会いできるなんてね……」
つまり滅茶苦茶偉い人ということだ。
そんな人がこんな場所に来るなんて……。
「もしかして森に入った時から気が付かれていましたかな?」
ヘンリーがそう言うとジルは頷く。
「当然です。この森は女王陛下の森。森の木々は女王の目。あのお方はあなた方が森に入る前から気が付いていらっしゃった。今も見ていらっしゃることでしょう」
ヘンリーは「なるほど」と言うと森に向かって「偉大なる女王陛下。お久しぶりです」と頭を下げた。
すると森に風が吹き、木々が葉を鳴らして揺れる。
これは……本当にエルフの女王が森の木を介して見ているということだろうか。
「女王陛下はあなた方を我が国に招くとおっしゃっている。ご同行願いましょうか」
「な!? エルフラントに部外者を入れるというのですか!?」
ガイの言葉にジルは「そうだ」と言う。
その言葉にガイは不機嫌そうに「あのハーフエルフも?」とミリを指さす。
「彼女もだ。ガイよ。貴様、女王陛下のお言葉に逆らうつもりか?」
「……いえ、そのようなつもりは」
ジルの冷たい視線にガイは目を逸らし、しぶしぶといった感じで引き下がる。
ガイは横目でミリを睨んでいるが私はミリの横に立ち、彼の視線を遮った。
「では、行きましょうか」
そうジルが言ったため、私は「あ、少し待ってください」と馬車の方に走っていく。
そして荷台で眠っているクレスセンシアという少女を背負うと皆のもとに戻った。
ジルは私が背負っているクレスを見ると「雷竜王か?」と僅かに驚いたような表情を浮かべる。
「ええ、どうやらずっと眠っているようです」
ロイがそう言うとジルは「少し良いか」と私の傍に来て眠っているクレスに指で触れる。
「ふむ……。魔力に乱れを感じる。我らが女王ならば雷竜王の状態も分かるであろう」
どうしてクレスがずっと眠っているのかがようやく分かる。
もしかしたら彼女を目覚めさせることができるかもしれない。
そう思うと少し嬉しくなった。
「馬車はこの場に。守人がしっかりと見張りましょう」
「よいな」とジルがガイに言うとガイは「承知」とやや不服そうに言う。
大丈夫だろうか?
なんか車輪を外したりとか嫌がらせをしそうな気がする。
そんなことを考えながら私たちは森の奥に向かって歩き出すのであった。
※※※
私たちは真っ暗な森を歩き続けていた。
先頭に歩くジルが持つランタンの灯りを頼りに進んでいく。
時折地面から突き出た木の根に足をとられそうになり、ミリが時々私を支えてくれた。
「……さっきはありがとう」
ミリが私に小声でそう話しかけてきた。
私は「気にしなくていいよ」と笑みを浮かべる。
「ああいう敵意を向けてくる人には無視が一番」
自由都市にいたころボリバルで散々学んだことだ。
ああいう奴は反応するとますます増長する。
大人な対応で冷たくあしらうのが一番だ。
万が一手を出して来たら叩きのめせばいい。
「隠していた訳じゃないんだけどね……。でも、なんか言い辛くて……。ハーフエルフはエルフと人、両方から差別されやすいから、怖かったんだと思う」
ゼダ人とアルヴィリア人。
同じ人間同士ですら差別が起きているのだ。
ハーフエルフというエルフでも人間でもない”異物”は排除されやすいという。
「大丈夫だよ。私はそもそも酷いこと言われる方の人間だし、他のみんなは信頼できる……よね?」
ロイたちの方を見ると彼らは頷く。
記憶を失い、彼らのことを殆ど知らない私でも彼らがそんなことで差別をする人たちじゃ無いことは分かる。
ミリが「ありがとう」と微笑むと私は話題を変えるためにヘンリーに話しかけた。
「えっと……ヘンドリック、様?」
「ヘンリーでいいですよ。皇帝の弟と言っても私は見ての通り出来の悪い放蕩者ですから。一族のつま弾き者だ」
ヘンリーの言葉にジルはやれやれと肩を竦める。
この二人は以前からの知り合いなのだろうか?
「じゃあ、ヘンリーさん。どうしてヘンリーさんは旅を?」
「そうですなあ……。最初はあの鬱屈とした石の宮殿を出たくて。でも今は己の見識を深めるためです。物事は多面的に見なくてはいけない。一つの視点、一つの思想だけで考えては大きな過ちを引き起こしてしまう。そう考えたのです」
だから旅に出て自分が見たもの、知ったものを書に綴っているという。
自分の考え、他人の考えを残し己の糧とする。
そして後世の人間に残したいと。
「ま! 偉そうなことを言いましたが様は旅行が大好きなだけです!」
ヘンリーが笑い、私たちもつられて笑う。
するとジルが立ち止まった。
彼の前には道が無く、木々が行く手を遮っている。
「あれ? 行き止まり?」
ミリがそう言うとジルが首を横に振る。
そしてゆっくりと手を前に出すとこう呟いた。
『━━枝は岐れたり』
すると木々が歪んだ。
空間が歪み、霧のように消えていく。
そしてあっと言う間に奥へと続く道が現れた。
「……今のは妖精語ですか。なるほど、道を隠すための結界というやつですね」
「うむ。都を隠すため森の妖精たちに協力をしてもらっている。この結界がある限り何人たりとも都に辿り着くことは出来ぬ」
森の奥にあるエルフの都を覆う結界。
それを常に展開しているとは……。
ジルは「では行くぞ」と歩き始める。
私たちは顔を見合わせ、それからジルの後を追って歩き始めるのであった。
※※※
「これが……エルフラント神聖国……」
私たちは目の前に広がる光景に息を呑んだ。
幾つもの巨大な大木が並び立ち、その幹の周りに街ができている。
大木同士は大きな橋で繋がれ、まるで宙に浮かぶ都市のようだ。
そんな中でも特に目を引くのは中央にある大木だ。
他の大木よりも更に一回り大きく、どうやら大木そのものが城となっているようだ。
「あれ”創生の樹”。深緑の森の始まりの大木であり、我らが女王陛下が住まう宮殿だ」
「なんというか……まるで絵本に出てくる世界だ」
ロイの言う通りだ。
大樹の都。
そんなものが実在するとは思わなかった。
私たちは都に続く巨大な橋を渡り、エルフたちの都に足を踏み入れる。
外から見ても圧倒される街は内側から見るとますます圧倒される。
自然と一体化した都は何層にも分かれており、その大きさと美しさに目を奪われる。
本当に物語の世界のようだ。
(でも……なんだか視線が痛いかな?)
先ほどから感じている視線。
都にいるエルフたちは皆遠巻きに私たちのことを見ており、彼らは異邦の者たちに興味と侮蔑の視線を送っていた。
「……ヘンリー様。いつもこのような感じで?」
そうユキノが訊ねるとヘンリーは頷く。
「ええ、まあ。森のエルフたちは自分たちこそ高貴な存在と思っており、外界に興味を持ちません。持ったとしてもそれは見下しの感情であることが多い」
「……耳が痛いな。永らく取っていた鎖国により我が国は平穏であったが純血主義が台頭することになってしまった。外を知る”老人”たちも森に還っていき、外を知らぬ者が殆どだ。一部の者は外界は汚れており、森から出れば瘴気で死ぬと本気で考えておる」
「それは……なんというか……」
ロイが言い淀むとジルは苦笑した。
「女王陛下も今の状況に頭を悩まされていらっしゃる。かといっていきなり開国することは不可能だ。故に最近では外のことを知り、同胞に広める役割を持った者たちを森の外に向かわせるようにしている」
「へえ? 森の高貴なエルフ様がねぇ?」
ロイが「おい、ミリ」とミリを諫めるが彼女はそっぽを向く。
先ほどのことを思えば彼女が森のエルフに敵意を抱くのは致し方ないだろう。
「……そういえば外にいるエルフはどういう存在なの?」
森の外にもかなりエルフが居る。
彼らももともとはこの国に住んでいたのだろうか?
「外のエルフ、つまりシティエルフはエルフラント神聖国の鎖国に反対して出て行った人たちの子孫よ。だから森のエルフからは裏切り者扱いされ、嫌われているわ」
「かつて、この国が鎖国するかどうかを決断する際に国が二つに割れた。鎖国派は反対派を弾圧し、同族同士で争うことを良しとしなかった反対派が国を出て行ったのだ。あの事件は我が国の汚点だ」
それは国が二つに割れたことがだろうか?
弾圧があったことだろうか?
それとも……反対派が出て行ったことであろうか?
そのことを訊ねる勇気は私には無かった。
街を抜け、中央の大木に到着すると思わず見上げてしまった。
大木は遥か上空まで伸びており、これだけの大きさになるのにどれだけの時間が掛ったのだろうか?
「さて、女王陛下に謁見される前に申し訳ないが着替えてもらおう。流石に血と煙の臭いがしている者を女王陛下の前に出すわけにはいかないのでな」
ジルの言葉に私たちは思わず自分の体の臭いを嗅いでしまった。
自分では気が付かなかったが確かに自由都市で戦ってから身体を洗ったり着替えたりしていない。
このままエルフの女王に会うのは確かにマズいだろう。
城から誰かが出てきた。
金の髪をセミロングに伸ばし、メイド服を身に纏った少女だ。
少女はジルの前に来ると一度私たちの方を見てからジルに頭を下げた。
「エリよ。この者たちを貴賓室へ。大浴場も使わせろ」
「……ハーフエルフも、ですか?」
エリと呼ばれたエルフのメイドは横目でミリを見る。
「そうだ。……ハーフエルフの件、誰から聞いた?」
「あらゆる場所で。既にハーフエルフが森に入ったことは知れ渡っております」
エリの言葉にジルは「ガイめ……」と舌打ちし、私たちの方に振り返る。
「私は女王陛下に報告する。そなた達はこの者について行ってくれ。あと、できる限り貴賓室からは出ないように。特に……」
「はいはい、分かってますよ。不用意に外に出て酷いこと言われたりされたくないし」
ジルは「すまぬな」とミリに頭を下げる。
それに近くにいたエルフの衛兵たちが動揺しているのが見えた。
彼らからしたら女王の右腕と呼ばれる存在がハーフエルフに頭を下げるなど信じられない光景なのだろう。
なんというか……自分が差別されるのには慣れきっていたが人が差別されているところを見るのは大変気分が悪い。
「さあさあ、皆さん! こんなとこで立ち話をしていても仕方ありません。貴賓室に行くとしませんか?」
ヘンリーの言葉にユキノが頷いた。
そして彼女はエリの方を向くと「案内をお願いできますか?」と言う。
「はい。では皆さま此方へ」
エリはそう言い、歩き出そうとしたが私を見ると動きを止めた。
それから「……シェードラン、ですか?」と訊ねてきた。
「え? う、うん。多分、シェードラン」
「……そうですか」
なんだろうか?
一瞬敵意のようなものを向けられたような気がしたが……。
ユキノは気が付いたらしく私の横に立ち、じっとエリのことを見つめた。
「何か?」
「そちらこそ何か?」
「…………」
「…………」
く、空気が重い!!
なぜかエルフのメイドとシェードランのメイドの間で火花が散っている。
その光景にジルはやれやれと肩を竦めると「では先に行っているぞ」と城の中に入ってしまった。
エリはジルが去ったのを見ると「……では行きましょうか」と歩き始める。
「なんか、本当に歓迎されていないな」
そうロイが呟くとヘンリーが「いつものことです」と苦笑する。
そして私たちもエリに続いてエルフの城━━”創生の大樹”に足を踏み入れるのであった。
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