第35節・偽りの歴史
「負傷者の後退を最優先に! 諸侯には撤退せずにその場で待機するように伝えなさい」
私はシェードラン軍の最前列で伝令に次々と指示を出し、兵を纏めようとしていた。
"ドーラ"からの砲撃とその後現れた門によってアルヴィリア軍は大混乱に陥っている。
既に傭兵部隊などは勝手に撤退し、全軍が壊走寸前だ。
(なんなのよ……アレは)
空に浮かぶ巨大な門にも驚くがあの門の下、爆発により焦土と化した平原が突然隆起し山のようになったのだ。
更に空は門を中心に歪み、青空は虹色に変化し、暗雲と共に激しく稲妻が光っている。
恐らく原因はあの門だろう。
ここから見ても分かるほど凄まじい魔力が漏れ出しており、それが大地のマナを狂わせているのだ。
「白銀騎士団だ!」
兵たちが指差す方向を見るとランスロー卿を先頭に白銀騎士団が此方に向かって来ていた。
ランスロー卿は私を見ると馬を止め、「無事でしたか!」と兜のバイザーを上げ、笑みを浮かべる。
「ええ、どうにか。今は負傷者兵の救出を行なっています。どうにか諸侯にはその場に踏み止まるように言っていますが……」
「……最早両軍とも戦どころでは無いでしょうな。ディヴァーンの主力は壊滅。我らも中央が大打撃を受け、エリウッド王子やオースエン大公などの所在が掴めぬ状態」
ヨシノは大丈夫だろうか……?
彼女はエリウッド王子と共に中央に居た。
無事ならばいいのだが……。
「従兄上から何か指示は?」
ランスロー卿は首を横に振る。
まあ大体予想通りだがため息しか出てこない。
「今は我ら自身で判断するしか無いでしょうな」
ランスロー卿の言葉に頷く。
負傷者の救出が完了ししだい、一旦後退すべきだろうか?
だが、あの門。
何か嫌な予感がする。
あれを放置していたら取り返しのつかないことになるような……。
「……ルナ。あれを止めなきゃ」
「リーシェ!? もう大丈夫なの?」
リーシェはあの爆発が生じた際に魔力に当てられたのか気を失って倒れていたのだ。
彼女はふらつく足でゆっくりと此方に近づき、頭を押さえながら頷く。
「"私"、アレを知っている……。アレが開いたら、大変なことになる……」
リーシェはまだ意識が朦朧としているようだが必死にあの門を指差している。
あの門、やはり危険なものなのか?
それに『知っている』とは?
(悩むより先に動くべきね……)
「ランスロー卿。王のもとに伝令を出してください。私たち辺境伯軍はあの門に接近し偵察を行います。場合によっては突入も」
「信じるので?」
ランスロー卿は横目で頭を押さえるリーシェを見た。
それに力強く頷き「勿論」と笑み浮かべる。
それにランスロー卿はやれやれと苦笑すると伝令の兵を出した。
「行くのであれば我らも同行しましょう」
「感謝します」
よし、あとはリーシェをどうするかだが……。
彼女は調子が悪そうだ。
この場に残した方がいいかもしれない。
「リーシェ、貴女は……」
リーシェの方を見た瞬間、息を飲んだ。
リーシェの背後の空間が歪み、裂けると闇が広がった。
そして闇の中から荊棘のようなものが伸びると彼女の体に巻きつき引き寄せ始める。
「リーシェ!?」
咄嗟にリーシェの腕を掴むが凄まじい力で引っ張られて行く。
エドガーもリーシェの腕を掴むがどんどん闇に引き寄せられて行く。
「リーシェを離せ!!」
ロイとウェルナー卿が剣を引き抜き荊棘を断ち切ろうとするが弾かれる。
これは、敵の魔術か何かか!?
私は闇に向かって火球を放ち、ミリも矢を撃ち込むが全て闇の中に消えた。
それどころか……。
「うわ!? 増え……!?」
闇が広がり、荊棘の数が増える。
荊棘は私たちにも巻きつき、そしてあっという間に闇の中に引き込まれるのであった。
※※※
ディヴァーン軍は主力が壊滅したため撤退を開始していた。
ベールン川近くに布陣していた部隊も撤退の準備を行なっており彼らは結局起動しなかったエンシェントゴーレムを見る。
大帝には昼までに起動しなかったら全員処刑すると脅されていた。
昼前に撤退となったが、このままじゃ戻り次第殺されるのでは無いだろうか?
全員がそんな不安を感じていた。
「い、いっそのことアルヴィリアに投降するか……?」
誰かがそう呟いた。
キオウ領にしたことを考えると投降が許されないかもしれないが大帝のもとに戻るよりは生存率が高そうである。
兵士たちは顔を見合わせるとゆっくりと武器を手放し始めた。
そしてアルヴィリア軍の方に向かって歩き出そうとした瞬間、ゴーレムが振動した。
四本足の巨人は内側から鈍く重い駆動音を出し、ゆっくりと空を見上げ始める。
「お、おい……誰だ、動かしたの……」
「し、知らない……。誰も動かしてないぞ!?」
ゴーレムの瞳に紅い光が灯る。
『門門門門門!! 刻刻刻刻刻!!』
ゴーレムは叫びにも近い声を上げ、歓喜するかのように身を震わした。
そして大きく四本の脚を広げると関節をギシギシと鳴らしながら身を屈めていく。
『竜核回収! 躍躍躍躍躍!!』
鋼の巨人がが跳躍した。
跳躍の衝撃で周りにいた人々は吹き飛ばされ、漆黒の巨体は瞬く間に見えなくなる。
その光景を見た兵士たちは呆然とし、「や、やっぱりアルヴィリア軍に投降しよう」というのであった。
※※※
「……天獄の門」
空に浮かぶ巨大な門を見てクレスはそう呟いた。
アレを呼び出したということは奴らはこの場で再臨させるつもりなのだろう。
だとすると辺境伯の姉妹が危ない。
あの二人は最後の鍵となるのだ。
拳を強く握りしめ、どうにか起き上がると先ほどまで法悦の表情で門を見上げていたラグダが「おや?」と振り返る。
「まだ立ち上がれるとは。流石は竜王ですね。持ち帰って解剖しようかと思っていましたが、暴れられても面倒だ」
ラグダが指示を出すと何人かのドワーフの技師たちが此方を取り囲む。
フェリを引き起こし、背中合わせで警戒すると遠くの方が騒がしいことに気がついた。
ラグダもそれに気がつくと舌打ちをする。
「もうアルヴィリア軍が来ましたか。仕方ありません、今日は退くとしましょう」
ラグダがそう言った直後彼の背後に巨大な鉄の塊が着陸した。
漆黒の装甲。
巨大な四本の脚。
そして蛇の面のような頭部。
これは……。
「……エンシェントゴーレム!? いや、"使徒"か!!」
ラグダたちがバハムートの竜核に飛び乗るとエンシェントゴーレムからワイヤーが放たれ竜核を固定する。
「では、いずれまた会いましょう」
ラグダが不敵に笑うとゴーレムが跳躍を行い、バハムートの竜核を"ドーラ"から引き剥がし天獄の門に向かって行く。
奴らを逃してしまったが今はそれよりもあの門をどうにかしなければいけない。
「クレス、私の力を渡します。どうかあの方たちを……!!」
フェリが此方の手を掴み目を閉じる。
すると繋がれた手を通して彼女から魔力が流れ込んできた。
彼女は残された魔力を全て此方に渡すつもりだ。
ならば自分は……。
「任せよ! お主の分まで暴れまわってやるわ」
フェリから魔力を受け取りながら己の中にある枷を外して行く。
奴らが相手ならば最早遠慮はいらない。
持てる力を全て振り絞り、仇敵を討ち果たすのみ!
「━━━━━━!!」
それは咆哮であった。
体の奥底から湧き上がる力に押し出されるように天に向けて咆哮を上げる。
体内の魔力が体を変化させ、巨大化した。
背中からは翼が生え、全身は輝く黄色い鱗に覆われる。
長き尾を伸ばし、牙の生えた口を大きく開くと肺から魔力と共に息を吐き出した。
「…………その姿も、久々ですねぇ」
魔力が枯渇し、顔が土気色になったフェリはその場にへたり込むと弱々しく笑みを浮かべる。
『お主は休んでおれ』
フェリにそう言うと翼を大きく羽ばたかせ飛び立った。
最後にもう一度下を見ると此方の姿に驚愕するアルヴィリアの兵と共に見上げているフェリと視線を交わす。
そして長くなった首を縦に振り、門目掛けて飛んでいくのであった。
※※※
「………様! ………ミア様! ルナミア様!!」
意識を失っていた私はエドガーの呼び声で覚醒した。
目蓋をゆっくりと開けると安堵の表情を浮かべているエドガーの顔が見え、私は「大丈夫よ……」と言うとゆっくりと起き上がる。
そして周りを見渡すと息を呑んだ。
私たちがいたのは門の真下であった。
大地が隆起し、幾つもの岩盤が重なり合って出来た岩山。
その中腹ぐらいに居たのだ。
「私たち……飛ばされたの?」
私の言葉にミリが頷いた。
「信じ難いけど空間転移したみたいね……」
この場にはエドガーにロイ、ミリとウェルナー卿がいる。
「……リーシェは!?」
ロイに訊ねると彼は苦虫を噛み潰したような表情で首を横に振った。
なんということだ!
リーシェだけが別の場所に飛ばされたのか!?
いったいどこに……。
「何かくるぞ!」
ウェルナー卿が指差す方を見ればアルヴィリア軍本陣の方から巨大な何かが飛来してきている。
それは大きなクリスタルのようなものを牽引しており、此方の頭上を通過すると岩山の山頂に向かって行く。
あの姿……形は違うがベルファで戦ったエンシェントゴーレムに似ている気がした。
「奴は上に向かったな……」
エドガーの言葉に全員頷いた。
山頂に何かあるのだろうか?
もしかしてそこにリーシェがいるのではないだろうか?
「山を……登りましょう。さっきのやつも気になるし、登りながらリーシェを探す、でどうかしら?」
私の提案に皆は頷く。
そして上を向き、雷雲に包まれた門を睨みつけるのであった。
※※※
意識を取り戻すと私はアルヴィリア軍の陣とは違う場所にいた。
岩山の山頂。
そこにある祭壇のような場所であり、私は地面から生えている黒い荊棘によって体を拘束されている。
祭壇には紫に輝く巨大なクリスタルがあり、それを黒い法衣の男が魔力で浮かばせるとこちらに振り返った。
『さて、余計な者どもがついてきてしまったがそちらは”戦車”らに任せるとしよう』
”蛇”の面を被った男はゆっくりとこちらに近づいてくる。
『自己紹介をするとしよう。私は”大祭司”。”蛇”を統括する者だ』
つまり敵の総大将ということだ。
以前”鴉”と名乗る敵が放っていた気よりも更に重い気だ。
一歩ずつ近づいてくるたびに此方の心臓が鷲掴みにされたかのように錯覚する。
「……貴方たちの目的はいったい何なの?」
睨みつけながらそう言うと”大祭司”は足を止める。
『なんだ、アレから話を聞いていなかったのか? いや、アレとそこまで繋がっていないということか……。それはそれで好都合ではある』
”大祭司”は喉を鳴らして笑うと天を、空に浮かぶ門を見上げた。
『遥か昔、この世界には二人の女神が存在した。女神アルテミシアとレプリテシア。二人の姉妹神はこの世界を創造し、様々な生命を生み出したのだ。原初の時代では全ての生き物が平穏に生き、世界には秩序と調和がもたらされていた。しかし……』
”大祭司”の放つ気が変わった。
静かな、しかし燃え滾るような激しい怒りだ。
『ある時を境にヒトは心に闇を抱えるようになった。最初はほんの小さな闇だ。だがそれは徐々に大きくなり、やがてヒトは女神の秩序から外れ己の欲のままに動くようになった。己の栄達を優先し、他者と傷つけあうヒトにアルテミシアは大いに悲しみ、苦悩された。そしてついに決断されたのだ━━━━ヒトの心より闇を消し去ると』
「闇を……消す?」
『左様。ヒトの闇、欲望と言った感情を全て消去しあるべき姿に戻す。アルテミシアと女神の忠実な僕であった者たちはヒトの闇による滅びを回避するためにヒトの心を一度消すことにした。しかし……』
”大祭司”は仮面越しに私を睨む。
深淵のように暗い憎悪の視線だ。
その視線に気圧され、私は息を呑んだ。
『妹神であったレプリテシアはあろうことかヒトに味方した。数百年に及ぶ戦いの末、レプリテシアは消滅した。しかし同時にアルテミシアも力尽き、深き眠りに着いた。双天の女神が世界から姿を消した後、”勝者”となったヒトは世界に蔓延り、偽りの歴史を紡ぎ始めたのだ』
”大祭司”は首を横に振り、王笏を地面に突き立てる。
『戦いが終わった時、女神の僕は三人しか残って居なかった。一人を除き、我らは誓った。再び女神アルテミシアを再臨させ、この世界をあるべき姿に戻すと。そのために我は”蛇”を作り上げ、機会を待った。そして今から数百年前、エスニア大戦を引き起こし女神を再臨させた。だが!』
”大祭司”が純白の杖をこちらに向け、先端から魔力の鎖のようなものを放つと、鎖は私の胸に突き刺さる。
そして”大祭司”が鎖を引くと私の体の中からすっぽ抜けるようにある存在が現れた。
レプリカ。
私と同じ顔をした少女だ。
彼女の体は半透明で少し白く輝いている。
彼女は私を一度見ると”大祭司”を睨みつけた。
『”大祭司”……!』
『久しいな女神の模造品よ。既に神域と化しているここならば貴様も存在できよう』
女神の模造品?
レプリカが?
それはつまり……。
『ええ、そうよ。貴女が思っている通り私は女神レプリテシアの模造品。ヴェルガ帝国が魔導科学の粋を集めて造った人造女神よ』
彼女がレプリテシアに関係しているのは薄々感づいていたがまさか女神の模造品だったとは……。
だからレプリカと名乗っていたのか。
『ヒトの分際で女神を作り出そうとするとはなんと傲慢なことか。ヒトでも神でも無い貴様は最も忌避すべき存在よ』
『あら、ありがとう。アンタに嫌われるなんて最高に気分がいいわ』
レプリカがそう言うと"大祭司"は『ふん』と鼻を鳴らした。
『エスニア大戦の際、我らはアルヴィリアを始めとする七英傑を唆し"狂王"を討たせた。しかしそれとほぼ時を同じくして再臨された女神は模造の神と戦い砕け散った』
「ま、まって! 七英傑? それって王国建国時の初代アルヴィリアと五大公の話!?」
歴史に疎い自分でも知っている。
アルヴィリア王国は初代アルヴィリアと五人の仲間たちによって建国された。
だが"大祭司"は七英傑と呼んだ。
アルヴィリア建国の裏側に”蛇”が居たことも驚きだがそれよりも気になることがある。
七英傑ということはアルヴィリアと五大公の他に誰か居たということか?
そんな話は聞いたことがない。
『この世界が偽りの歴史で紡がれているならばそこに存在する国もまた偽りにより生まれる。かの大戦の際、女神の血と魂を引継ぎしアルヴィリアはオースエン、シェードラン、キオウ、メフィル、ガルグル、そしてダスニアを率いて女神と共に戦った。しかし、あろうことか女神に最も近いアルヴィリアが最終局面で裏切ったのだ。ダスニアによりアルヴィリアは討たれたが残された英傑たちは女神を失い、旗印であったアルヴィリアも失ったとなれば反乱軍は瓦解、大混乱に陥ると考えた。故に……』
「まさか……今のアルヴィリア王家は……」
『左様。アレは偽りの血筋。最後の戦いの際、死んだのはダスニアとし、その存在を抹消。ダスニアがアルヴィリアを名乗ったのだ』
頭が混乱する。
今まで信じていた歴史が根本から覆ったのだ。
これは私を混乱させるための嘘なのではないだろうか?
私はレプリカの方を見ると彼女は眉を潜めて首を縦に振る。
(か、考えるのは後にしよう……)
これ以上色々考えると知恵熱が出そうだ。
今はそれよりもこの場を抜け出すことを考えなければ……。
『歴史の授業をしていただいて、ありがとう。で? アンタの目的は何かしら? 女神の肉体は既に砕け散っている。私に門の封印を解かせてもあの先にあるのは分離された女神の力だけ。器を用意しなければアンタの目的は達成されないわ』
『それ、アタシも聞きたいわぁ』
私と"大祭司"の間に別の"蛇"が上から降って来た。
この姿、ペタン砦でエドガーが交戦したという使徒か!
彼女は此方を一瞥すると"大祭司"と向かい合い、『これ、どういうことか説明してくれる?』と首を傾げるのであった。
※※※
『……"大淫婦"』
『ええ、アンタに除け者にされた"大淫婦"ちゃんよ。今回の件、勝手に再臨の儀を始めたこともそうだし、器も連れてきていない。いったいどういうつもりかしら……』
"大淫婦"が"大祭司"を静かに睨みつけると"大祭司"はため息を吐いた。
『……我はこの千年間ヒトを見続けてきた。そして理解したのだ。今のままでは女神が再臨したとしてもヒトはそれを受け入れず、再び抗うであろう。ヒトは矮小なれど群れると驚くべき力を見せる。三度目の復活を果たしてもアルテミシア様が再び討たれては意味がない。世界を正しき姿に戻すにはもはや女神を再臨させるだけでは駄目なのだ。もっと、より強い、絶対の神が現れなければこの世は救われない』
”大祭司”の言葉に”大淫婦”は『そういうこと』と呟き、宙に浮かぶ巨大なクリスタルを睨みつける。
『”大祭司”、貴方……バハムートの竜核を使って新たなる神を創ろうとしているのね?』
『その通りだ。女神に傷を負わせるほどの竜王の核に女神の力を注ぎこむ。それにより最強の神が顕現するのだ!』
『馬鹿なの!?』と怒ったのはレプリテシアだ。
彼女は魔力の鎖で縛られながら”大祭司”を睨みつける。
『アンタが生み出そうとしているのは心無き神! ただ破壊だけを振り撒く存在よ!!』
『それでよい。世界を一度焼き払い。その後アルテミシア様に再臨していただく。最初からやり直すのだ』
この男、本気で世界を滅ぼす気か!?
どうにかして止めなければ!
私は必死にもがくが巻きついている荊棘はびくともしない。
そんな此方の様子を"大淫婦"は見ると『最後に一つ』と"大祭司"に問いかける。
『……"狩人"を嗾けた本当の理由は?』
『そこの模造品の覚醒を促し、力を使わせるためよ。模造品とはいえ女神の力を持っている。我らを消滅させることができる唯一の脅威。しかし、今のコヤツでは一度力を使えば力を使い果たす。現に我らは消されていない。それに人のことは言えぬが奴も狂信的にアルテミシア様を信奉していた故な』
『……模造品の力を削ぎ、己の計画の邪魔になるかもしれない男を消したと。なるほどにゃあ……相変わらず反吐が出るようなクソ野郎っぷりねぇ』
『全ては世界を在るべき姿に戻すためだ』
"大祭司"の言葉に"大淫婦"は『そうか、そうか』と頷くとスカートの中から鎖を放った。
鎖は私に巻きついていた荊棘を切り裂き、レプリカを拘束していた鎖を砕く。
動けるようになった私はすぐにレプリカのもとに駆け寄り、「大丈夫!?」と声を掛ける。
『ええ、平気よ。それより……』
"私"たちは対峙する二人の使徒の方を見る。
"大淫婦"は私たちを庇うように立ち、鎖を展開して行く。
『……"大淫婦"よ。貴様、自分のしていることが分かっているのか?』
『ええ、分かっているわ。"大祭司"、アンタは盟約を破った。盟約を破った者がどうなるか、知っているでしょう? なら、アタシがとる行動も分かっているはず』
『無論。盟約を定めたのは我であるからな』
"大祭司"が王笏を構えると周囲の岩が浮かび上がる。
彼から発せられる気は凄まじいものであり、思わず鳥肌が立つ。
『リーシェ様、戦えるかしら?』
「うん。武器は無いけど戦える。レプリカは?」
『私もここならサポートくらいは出来るわ』
予想外の共闘となったが今はありがたい。
武器すら無い今の私ではあの男と戦うことが出来ないであろう。
『致し方ない。まずは愚か者を排除し、門の封印を解かせるとしよう』
『誰が開いてやるもんですか! 陰険クソ野郎! ここで死に晒しなさい!!』
『お!? 女神様、意外と口悪いねぇ! 気に入ったかも!』
「えっと……二人とも! 行くよ!!」
私の言葉と同時に三人で突撃を開始し、"大祭司"との戦いが始まるのであった。
※※※
岩山を登るのは意外と楽であった。
岩山の所々に階段のようなものがあり、私たちはそれを利用して上へと向かっていく。
平原にこのような階段があるはずが無いため、恐らく岩山ができた際に別の空間と融合したのかもしれない。
「う……、これ……」
ミリが足を止めたため、彼女が見ている方を見ると岩の隙間から焼け焦げた腕のようなものが伸びていた。
恐らく岩山の隆起に、いや、その前の砲撃で死んだ兵士の腕だろう。
「……行くわよ」
よく見ると岩山中に死体らしきものが見える。
凄惨な光景だが今は足を止めている場合ではない。
私たちはそのまま階段を上り続けると開けた場所に出た。
結構登ったと思うがあとどのくらいで山頂だろうか?
遠くに登れそうな別の階段がある。
そこに向かおうとすると、上の方から大きな音が聞こえた。
これは爆発音……!?
上で誰か戦っているのか!?
「まさか、リーシェじゃ!?」
ロイの言葉に私は頷く。
もし上でリーシェが戦っているのならばすぐに助けに行かなくては。
私たちは顔を見合わせ駆け出すが、すぐにウェルナー卿が足を止め、「散れ!!」と叫んだ。
「……っ!?」
全員で咄嗟に散らばると先ほどまで私たちが居た場所に何かが降ってきた。
それは鉄の塊だ。
漆黒の装甲に巨大な四本脚。
腕の無い胴に蛇の面のような頭部。
これは……まさか、先ほど頭上を飛んで行った奴か!!
『発見!! 見敵確殺! 滅滅滅滅滅滅!!』
巨大なエンシェントゴーレムが私たちの前に立ちはだかり、大気を振動させながら雄たけびを上げるのであった。
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