81 軍師竹中半兵衛現る 新加納の戦い(1)
翌永禄六年(1563年)二月二日、小牧山鍬入れ(起工)を行った。
築城奉行は丹羽長秀である。その年の七月までに、竣工するよう命じる。
小牧山の北面の削平を終え、石積を始めた四月十三日、清州城本丸の書院に木下藤吉郎と蜂須賀小六が現れた。二人とも神妙な表情でぼくを見詰める。
「信清さまに不穏な動きがございます。小牧山に、石垣が積まれていくのを見て、斎藤方に泣きついたのでございましょう」
小六が口火を切った。
ぼくは信清にはうんざりしている。またか、という感じである。
「斎藤家筆頭家老長井隼人が、軍の編制を行っているとのことでございます」藤吉郎が話を続ける。
「築城中に、稲葉山城、犬山城連合軍が妨害してきましたら、厄介なことになります」
「ウム……」
「殿、どうなされます」
ぼくは立ち上がって書院を出、廊下に胡坐をかいた。
正直言って、今この時期に美濃とは戦いたくなかった。犬山城の制圧と美濃攻略は、小牧山城が完成し、清州から引っ越してからのことと決めていたからだ。
「西美濃の三人衆は、どうしておる」
「おそらく静観しているものと、思われます。稲葉良通、安藤守就は、反長井派でございますゆえ」
藤吉郎が答える。さらに、ぼくは問い続ける。
「仮に、われらが美濃に侵攻したとして、奴らはどの程度の兵で迎え撃つのだ」
「おそらく、三千から四千でございましょう」
「小牧山城の完成まで、あと三か月は必要です。この辺で、釘を刺しておいたほうが良いのではないかと、思われます」
小六が進言した。
「明日までに考えるといたそう」
ぼくの口から溜息が漏れる。
ぼくは寝間に入り、ショルダーバックが入っている麻袋を出した。ぼくがこの時代に転生してきた日、犬千代(前田利家)が用意してくれた麻袋である。ショルダーバックには、信長公記現代語版、年表、六天魔王同盟誓約書が入っている。
信長公記のページを捲った。この年に美濃と戦ったという記載がない。
年表を見た。永禄六年四月、新加納の戦い、と記されている。加納口は知っている。父信秀が道三と戦った加納口の戦いである。父信秀は、稲葉山城下を眼の前にして道三に惨敗している。その戦で五千の兵を失っているのだ。
翌日、ぼくは帰蝶を同席させ、広間に柴田勝家と丹羽長秀を呼んだ。
ぼくは両名に、藤吉郎と小六がもたらした、美濃の情勢を話した。
「たしかに、築城中に、稲葉山城、犬山城連合軍に攻撃されましたら、厄介なことになります。職人、人夫共に動揺が走りますと、工事が止まってしまいます」
築城奉行の丹羽長秀が言った。
「殿、ここは、一気に攻めたてましょう。三河方面の心配はありませんし、美濃は西美濃三人衆の加勢を得られないでありましょうから。しかもわれらは、美濃攻略戦に全軍を動員できます」
勝家も美濃攻撃に積極的だった。
「敵の大将は、誰です」
帰蝶が訊いた。
「長井隼人であろう。彼の腹心日根野弘就も、参戦するであろう」
ぼくは呟く。
「長井隼人は、兄義龍を唆し、われの弟孫四郎と喜平次を日根野に命じ殺させた男でございます。そのうえ、兄を父道三と戦わせ、殺した張本人にございます。信長殿、これは父道三の弔い合戦にございます」
「ウム……」
ぼくは腕を組んで天を仰ぐ。
「やむなし。勝家、長秀、直ちに陣立てにかかれ」
「全軍で、よろしいでしょうか」
勝家が聞く。
「全軍、動員せよ。勝家、長秀、この戦、決して負けられぬぞ」
「ははっ」
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