22 清州城攻略は知略、謀略戦
天文二十三年(1554年)が終わり、年が明けた弘治元年の三月になっても、清州城の織田信友は行動を起こす気配がなかった。
ぼくは信友に圧力をかけることにした。
痺れを切らしていた斯波義統の子、義銀に清州城攻撃を伝え、総大将として迎える旨を告げる。義銀を那古野城に迎え、軍装を整えた二千の歩兵と五百の鉄砲隊を閲兵させた。
義銀は気が狂わんばかりに喜んだ。
ぼくは義銀が感情を高ぶらせているうちに、信光に対し出兵せよという命令を下すよう願い出る。義銀は即座に信光宛の出兵命令書をしたためた。
だが信光は動かない。これは彼と打ち合わせた通り、計画どおりである。だが何も知らぬ義銀は激怒した。ぼくに信光追討の命令を下すありさまである。
ぼくは仰せのままにと返答し、受け流す。
三月の末日、信光からの密使が来た。
清州の坂井大善から、誘いの文が届いたという。その条件は、ぼくが予想していた通り、信光を守護代に据え、信友と共に二人守護代で尾張を支配するというものだった。
四月二日早朝、遂に信光から密書が届いた。明後日四日に信友軍と合流するため清州城に入るという簡単な書状だった。
ぼくは帰蝶ら五人の仲間を広間に集めた。
ぼくと五人の仲間は車座になる。
「誰か、信光軍に紛れて清州城に入ってくれ」
「それなら、サル殿が適任では」帰蝶が笑みを浮かべて言う。
「清州に面が割れておりませぬゆえ」
藤吉郎がぼくを見詰めたまま頷く。
「他の者の意見はどうだ」
「他の者は、面が割れておりますゆえ、よろしかろうと」
小六が言った。利家も信定も頷く。
小六は話を続ける
「念のため、信光軍が清州に向かう途中で、小競合いを起こしたら如何でしょうか。すんなり清州に向かせたのでは、出来過ぎだと、坂井大善に勘繰られるかもしれません」
「……そうだな」
「その役、わたしが務めましょう。わたしの顔は、信光軍にも、清州軍にも知れ渡っておりますので」
利家が身を乗り出して言う。
「ウシよ、そなたの考えはどうだ」
「よろしかろうと。事前に、信光軍と段取りを整えておく必要がありますが」
帰蝶が懐から絵地図を出して広げた。
利家が腕を組んで言った。
「わたしが、五十ほどの兵を引き連れて、偶然に清州に向かう信光軍と遭遇することにします。わたしが大声を上げます。信光様の軍とお見受けした。どちらに参るのか、と」
「それで、どうなる」
ぼくは利家を見つめて尋ねる。
「わたしに向かって、騎馬武者数人が、抜刀して襲いかかります」
「それで?」
「それで……、わたしは逃げるのみです」
ぼくは笑いだした。
「ウシよ、これでいいのか」
「とりあえず、よろしかろうと。信光さまには、清州城入城後、このことを、部下の者の口を借りて、清州の者たちに知らしめることが肝要かと」
「サルよ、この段取りを、信光と整えなければならぬ。できるか」
「この藤吉郎に、お任せくだされ」
「遭遇する場所は、ここで」
利家は清州城まで約五キロの街道を指さした。
四月二十日、ぼくは斯波義銀を総大将に立て、総勢二千の軍で清州に向かった。前日、信光様が明日決行される、との藤吉郎からの連絡が入ったからだ。
藤吉郎の話によると、信光は清州城入城以来、の南櫓で防御に当たっていたと言う。
その日、信光は総勢千五百を総動員して一挙に坂井大善の陣営に攻撃をしかけた。突然の攻撃に敵陣は大混乱、瞬く間に総崩れになった。兵が信友の寝所を取り囲んだときには、彼はすでに自害していた。
ぼくが清州城に入った時、すべてが終わっていた。信光の戦ぶりは際立っていた。ほとんどの兵を失わず、清州城を占拠したのだ。
大善は主君信友と自兵を見捨て、今川義元に逃亡していた。
弘治元年1555年は、信長にとって人生の節目の年になった。尾張統一への大きな足掛かりとなる年となったからである。
信長二十二歳の春であった。
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