第571話 パン窯の勇者


 俺は馬小屋と宿ホテルの間のスペースをぐるりと移動してパン焼き用の窯へとやってきた。


 ノヴァが汗だくで熱心にパンを焼いている。頭には布を巻いて髪が垂れないようにしており、炎のような真っ赤な髪は見えないし、当然鎧など来ておらずエプロン姿だ。知らない人が見たら、いや、知ってる人が見ても赤の勇者だと気付かないことだろう。


「おはよう、ノヴァ」

「む。ユーマ殿、おはよう」

「お疲れ様。朝から精が出るな」


 ノヴァはふふっ、と笑った。


「久しぶりのパンづくりが楽しみ過ぎてつい早起きをし過ぎてしまった」


 遠足当日の小学生みたいなやつだな。

 まあ、剣を振ってる時より生き生きしているんだから、ノヴァにとってはいいことなんだろう。薪の代わりに窯に突っ込まれて熱源になっている魔剣レーヴァテインにとってはいいことなのかどうかはわからないが。


「ところで」


 笑顔から一転、ノヴァは眉をひそめた。


「どうしてリュカをぶら下げているのだ?」





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