第560話 報告事項「は」以上です。


 炎の魔剣レーヴァティンが……もといノヴァがずっとウチに居る保証は無い。帝国軍が侵略してくるようなレベルではなくても、国難あれば勇者は招聘されることだろう。


 そんな場合は俺もついでに呼ばれそうな気がするが、それはさておき。


 当面は何事もなさそうではある。

 だが、アイが言っているのはそういうことではない。宿ホテルを長期間運営するにあたって発生するであろうリスクをあらかじめ軽減しておけ、という話なのだ。


「今は良いアイデアが無いな……。ちょっと考えてみることにするから、アイも何か思いついたらいつでもいいから教えてくれ」

「はい。かしこまりました」


 アイが頷くのが動きでわかった。


「あとは、なんかあったっけ?」

「報告事項は以上です」

「うん。了解。ありがとう」


 俺が礼を言うと、やや間をおいてアイが口を開いた。


「あとは魔力の補充だけです」

「えっ。それは報告しながらやってたんでは?」


 そんな言葉は完全無視してアイは体を起こした。仰向けになっている俺の肩と腕を押さえつけるようにして、覆いかぶさってくる。動けない。力強いなアイ。


「もしもしアイさん?」

「はい」


 アイはほとんど馬乗り状態。顔が近い。黒髪がさらりと零れて俺の頬に触れた。俺は言い掛けた言葉を飲み込んで沈黙する。


 俺は観念して目を閉じた。

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