第553話 “俺の未練そのもの”


 当館は俺と一緒に異世界こっちにやってきた元の世界あっちのビジネスホテルだ。「ヤツ」に言わせれば“俺の未練そのもの”であるらしい。


 そんないわゆる普通のビジホだから、当然エレベーターはある。動力源――要は電力だ――が不足しているため、稼働はしていない。太陽光発電で賄えるのは俺のPCと冷蔵庫くらいなのだ。エレベーターを常時稼働させるのは流石に無理。


昇降機エレベーターなんて今まで使ってなかっただろ」


 お客様には階段を使って客室まで上がっていただいていたのだ。


「このところ客室稼働率が向上しておりまして、年配のお客様から『階段の昇り降りがつらい』とのご意見をいただいております」

「あー、うん。お年寄りからの苦情ね。理解した」


 こういうのが口コミで広まると客足が遠のきかねない。

 なるべく早めに手を打つ必要があるな……。


「とはいえどーしたもんかね」

「ユーマ様、僭越ながら提案させて頂いても宜しいでしょうか?」


 その申し出に俺はちょっと驚いた。

 アイの顔を見ようと思ったが体勢的につむじしか見えなかった。

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