第541話 よくわからない表情をされる。

「ふむ」


 ウェントリアスは俺の頭の先からつま先まで不躾にジロジロと見回した後、小さな掌でぺちぺちと髪やら腕やらを叩き、最後に頬を引っ張った。


「……痛いぞ」

「大事無いようで安堵したぞ」

「そりゃどうも」

「隣国と事を構えたにしては上出来よな」

「知ってたのか」


 どこで耳にしたのか不思議に思っていると、ウェントリアスが胸を反らした。


「ふふん。余を誰と心得る」

「“風”のウェントリアス様だろ」

「その通り。余に知らぬことなどありはせん」

「……本当のところは?」

「帝国斥候の嫌がらせが無くなった」

「なるほどね」


 帝国が偵察の兵を退いたわけか。高杉の指示だろうな。


「で?」

「で、とは?」


 ウェントリアスの短い問いの意図が分からず質問を返す。

 守護精霊は眉根を寄せて唇を尖らせた。呆れているようなとぼけているような、よくわからない表情。


「どうせまた厄介事を持って帰って来たのであろう」

「へへへ」


 よくお分かりで。


「余の手を煩わせるでないぞ、ユーマ」


 釘をさされてしまった。まあいざって時は助けてくれるんだろうが。

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