第540話 馬車の荷台で再会する。


 山の麓とうちの宿ホテルを往復する送迎馬車は空いていた。というかガラガラだった。


 まあ時間帯の問題だ。


 チェックアウト後から次のチェックインが始まるまでの間というのは暇なものだ。これは元の世界あっちの原則だが、こちらでも俺は同じルールで動いている。そういったルールが少しは顧客に浸透してきたのかもしれない。


 御者台にはリュカとノヴァが座っていろいろ喋っているのを見つつ、俺は座席を広く使っていた。ここまでずっと歩いてきたので俺は疲労困憊だったのだが、ノヴァのやつは元気いっぱいである。鍛え方が違うんだろう。


「くぁ……」


 欠伸が漏れた。すっかり気を抜いてしまっているな。リュカの顔を見たせいか、拠点に帰ってきたせいか。馬車の揺れすら心地よい。気を抜いたらこのまま寝てしまいそうだ。瞼が重力に負けそうだ。


「これ、ユーマよ」


 頭を小突かれた。

 俺の他には誰もいないはずだが。


「起きよ」


 偉そうな態度は良く知るものだった。


「――ウェントリアスか」

「しゃきっとせよ。余の御前であるぞ」

「自分で言う」

「ユーマが言うてくれんからな。仕方あるまい」


 いつの間にか荷台に“風”の守護精霊が俺の前に姿を現していた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る