第530話 宿屋

 見学。視察。監査。

 なんでもいいが国や自治体の行うそれらは面倒くさい。少なくとも元の世界あっちではそうだった。帝国の視察が面倒ではないという保証はない。


「宿屋なら帝国にもあるのでは?」

「勿論あるとも」


 顔を引きつらせる俺をよそに話は進む。

 そうなのだ。宿屋なんてものはいくらでもあるのだ。俺の宿ホテルをピンポイントに視察したいと言い出すかも、なんてのは自意識過剰も甚だし――


「そこの真田悠馬サナダユーマくんも宿をやっていると聞き及んでいる。なんでも塔のようにそびえたつ摩訶不思議な建物だとか」


 くそっ、やっぱり俺かよー。


「耳の早いことだね」

「此処だけの話、以前から貴国にちょっかいをかけていたのだよ。山の中腹の砦がどうしても落とせないという報告はあったのだ。山の中腹にある塔のような防衛拠点には興味があったんだよ。宿屋だとは思わなかったけれどね」


 ……こっち見んな!


 帝国と小競り合いしてたのがここにきて足引っ張るとかなー。そうだよなー。目ぇ付けられてたのは知ってたよ、うん。……くそっ。降りかかる火の粉を払ってただけだぞこっちは。






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