第512話 化物


 飛梅。

 菅原道真にまつわる伝説のひとつだ。


 左遷された道真が長らく親しんでいた梅を惜しんで歌を詠んだら、その梅が一晩で左遷先の太宰府まで飛んできてくれたとかいう話。トンチキ極まる逸話であるが、現物の梅が大宰府にあるのが梅が飛んできた証拠だ。


 って、んなわけあるかぁ!

 梅が空とか飛ぶわけないだろうが。


「それを言うたら人が神になるのもおかしいじゃろ」


「ヤツ」は煩わしそうに俺のツッコミを斬り捨てた。


「事実として高杉は飛びおった。対処せねば死ぬぞ」


 ごもっとも。

 ウダウダ言っても現実は変わらないし待ってもくれない。


 高杉の手札は多い。

 剣術。

 全方位から飛んでくる刃物を難なく叩き落す腕前。

 雷撃。

 任意の場所に雷が落とせる。おそらく連射も可能。

 不可視の手。

 物理障壁。攻撃に転用できる可能性あり。

 飛梅。

 一瞬で背後を取られた。瞬間移動、空間跳躍の類か。


 攻防ともに隙無し。 

 完璧な化物バケモンじゃあないか。

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