第434話 質問と回答


「なんでも訊いてください」と俺が応じると、ナーシャは小さく深呼吸をしてから問うてきた。


「私たちの宿をお選びになった理由はなんでしょうか?」


 ナーシャは言った。


「王都にはもっと規模の大きな宿も、施設が整っている宿も、格式の高い宿もあります」


 俺は黙って彼女の言い分に耳を傾ける。


「私たちの宿は小さなものです。私たちにとっては大切なお店ですけど、殿下や、あの塔の宿の方に選ばれるような立派なものではないと、思うんです」


「だ、そうだよ、我が英雄」


 ヴィクトールも俺を見た。説明せよ、ということか。俺は頷き、端的に答えた。


「接客が良かった。それに尽きる」


「接客……ですか?」

「そう。宿泊客に対する接遇だね。丁度いい距離感だったよ。俺にとっては」


 近過ぎず遠過ぎず。

 必要にして十分なサービス。

 うちの接客マニュアルにかなり近いと感じた。


「手前勝手な理由を付け加えるなら、俺にというかこの国にはあまり時間的な猶予がない。うちのマニュアルをゼロから身につけてもらうよりは、近い水準の接客をしているところと契約したい」

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