第391話 高い稼働率の要因はモノかヒトか、或いは両方か

 夜も更けて、本日の当ホテルの客室稼働率は8割超え。

 悪くない。

 コンスタントに稼働するようになったもんである。


 というか――


「――こんな山ん中でよくもまあ部屋が埋まるよな。やっぱり設備の違いが話題になってんのかね」


 ベッドひとつとっても異世界こっちとはレベルが天と地ほどに違う。この世界にはポケットコイルマットレスなんてものは存在しないからな。


 知らない者のために説明すると、ポケットコイルマットレスと言うのは小さな発条コイル状の金属素材を突っ込んだ筒をマットレスの枠に敷き詰めているもののことを指す。マットレスのどこで寝ても同じ弾性を発揮する。結構なアイデア商品であるが、元の世界あっちではこれですらもう古い。金属部品を使っているために、廃棄処分がしづらく再利用も難しい。要するに持続可能性サステナビリティが低い、というわけだ。そうした「サステナブル」がトレンドな海外を中心に最近では再利用可能なウレタン系素材を組み合わせたマットレスが流行りつつあったりする。まあ、異世界に転生した俺には関係ない話だが。


 盛大に逸れた話を戻そう。


 ポケットコイルマットレスはこの世界には存在しないのだ。技術水準だけの問題ではない。それ以前に発想が隔絶しているから。この世界の人類を馬鹿にするつもりなどないが、この世界の文明レベルでは想像すらできないはずなのだ。それはベッドに限った話じゃあない――

 

 などと俺が事務所のデスクで考え事をしていると、ナターシャがフロントからひょっこり顔を出してきた。


「部屋もいいですけど接客が特にいいですからね!」

「ナターシャが言うのかよ」

「どういう意味ですかユーマさん」

「そのままの意味だ。とっとと持ち場フロントに戻れ」

「アイさんアイさん! ちょっとこの支配人に私の仕事ぶりを教えてあげてくださいよ!」


 ナターシャは、いつの間にか俺の横にすまし顔で控えていたアイにすがりつく。

 アイはすげなくそれを振り払い、一言。


「以前より随分マシになりました」

「アイさん言い方ぁ!」

「褒められてるぞ。良かったなあナターシャ」

「良くないですよ!」


 いいからフロントに戻れよ。仕事しろ仕事。

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