第379話 魔法使いナターシャの成長度合い

「ま、出迎えご苦労ってとこか。元気そうで何よりだ、ナターシャ」

「ユーマさんもお疲れ様です。王都はどうでしたか」

「――思い出したくもない。当初の依頼はケリ付けてきたが残務が山盛りだ。というか残務の方が多い。散々だ」


 思い出しただけで眩暈めまいがしてくる。


「お、お疲れ様です。ちょっと意味わかんないですけど」

「大丈夫だ。俺も意味がわからん」

「いいんですかソレ」


 全くよくない。

 だが、それはそれとして、


「ナターシャの方こそ調子はどうなんだ」

「湯沸かしは完璧です!」


 そうなのだ。

 こいつの使う魔法は加熱特化。湯沸かししかできない、とは本人の弁だが、大容量の電気・ガスを供給できない異世界においてこれほど有用な魔法はないと俺は信じている。だからこのロクな接客もできないポンコツ娘を雇っているのである。


「他は? 接客がダメダメなのは今しがた確認したが」

「……」

「目を逸らすんじゃあない」

「近接戦の体術をアイさんに習ってます」

「ほう」


 ナターシャの魔法は対象に接触しないと発動できないからな。近接戦を身に着けるのは理に適っている。というか、ナターシャの戦闘力が上がったとすると俺――「ヤツ」の力を借りてない場合の俺――がこのホテルで最弱なのでは?


(別におぬしが最前線に立たねばならぬという道理もなかろうし、力の強弱だけが強さの証明ではなかろ)


 俺のうちで「ヤツ」がなんかフォローしてくれて少々びっくりした。

 しかもちょっと良いことを言いやがる。

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