第374話 出迎えてくれたのは獣人リュカでした

 “風”ウェントリアスの祠を後にして、つづら折りの坂を上ると谷があってその向こうに見知ったホテルの姿があった。ぱっと見、どこにも破損はないようではある。


「……」

「おい、ブルーノ。ちゃんと前見ろ。橋があるぞ」


 あんぐりと口を開けてホテルの威容を見上げる商人の脇腹に肘を入れると、ようやく我に返った。やれやれ。


「すっっっっっげえ塔じゃないですか!!」


 溜め過ぎだ。

 ちょっと落ち着け。

 それから塔って言うな。


「こりゃ一体どうなってるんですかい!? 建材も、工法もさっぱり見当がつきやせんぜ?」


 異世界こっちのモノではないからなあ。

 説明のしようがない。俺も建築そっち方面は素人だし。


「細かいこたぁ気にするんじゃあない。今は馬車をちゃんと進めてくれ」

「へいっ」

「落ちたら死ぬ――ことはないがムラノヴォルタまで流されるぞ」


 実際流された奴は大勢いる。懐かしいような、思い出したくもないような事実ではあるが。


 無事に橋を渡り切ったところで「ばうっ」と聞き覚えのある獣の咆声ほうせいが聞こえた。


「シュラか」


 シュラというのはデュワンゴという種類のデカい獣の名である。


「ってことは当然――」


 駆け寄ってくるシュラの背中には小さな獣人の少女が乗っかっていた。


「――リュカもいるわな」

「ユーマ! おかえりデスヨ!!」

「はいよ。ただいま」

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