第356話 決断の理由、愉悦の笑み

「シュトルムガルド王国の置かれている現状はわかった」


 のっぴきならない状況だ、ということがな。

 

「可能な限りの手伝いはしてやってもいい」

「有難い」


 本当は嫌だ。

 国家間のいさかいいに関わりたくなどない。


 実際、不干渉を決め込むこともできなくはないだろう。

 最悪、俺の宿ホテルだけなら――相当厳しいことになるだろうが――守り切れなくもないはずだ。“風”の守護精霊ウェントリアスに返し切れないくらいの借りを作ることになるし、俺も、俺の宿のスタッフもタダじゃすまないだろうが。


 だが。


 ――この窮状を無視するには、しがらみが増え過ぎた。


 ムラノヴォルタの連中。

 知り合った行商人のオッサン。

 宿屋の姉妹。

 この王宮で働く面々。


 彼らの生活が、命が脅かされるとわかっていて無視はできない。


(甘い。甘いのう、ユーマよ)


 五月蠅うるさい。


(じゃが、それでこそユーマよ)


「ヤツ」は俺のうちでくつくつと笑った。

 揶揄の笑いでも嘲弄の笑いでもなく、ただ愉快そうに。


「結果は保証できないぞ」

「構わないよ、我らが英雄ユーマよ」


 満足そうに頷くヴィクトールに、俺はこう告げた。


「――まず、ふたつ言っておくことがある」

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