第337話 得たモノと失くしたモノ
「貴女は、ノヴァはそれで良いのですか……?」
乾いた声で問う私に、ノヴァは目をすう、と細めました。
好意も悪意も無い、無機質な視線をこちらに向けて、ノヴァは小さく口を開き、
「良い、とは」
と問い返してきました。
これまで接して躱してきた彼女のどの言葉よりも平坦な呟きでした。
こちらの返事を待たずノヴァは言葉を継ぎました。
「魔剣に選ばれ、勇者になり、家督を継ぎ」
一息。
「騎士の誉れではありませんか。これ以上望むべくもない」
我が世の春、と言わんばかりの言葉。
言葉だけで表情は違いましたけれど。
「本気でそう、仰っていますの?」
「はい」
首肯。
双眸には昏い感情がくすぶっているのがわかりました。
「この手で父の、兄の仇を討つことができるのです。できたのです。そして家名を存続させることも。剣才無きこの身には、望外の幸せといえましょう」
しあわせ。
倖せ。
「幸運だった、と?」
「ええ」
幸運、ですか。
この状況が? 幸運? 本当に?
「今、ノヴァは本当に、幸せですか?」
「……」
「……」
長い長い、けれど実際にはほんの僅かな沈黙の果てに、
「……はい、私は幸せです、エリザ様」
「っ!!」
――そんな今にも泣きそうな顔で幸せなどと!
よくもそんな言葉を!!
私が激昂し叫ぼうとするよりも早く、ノヴァは機先を制して背を向けました。
「撤退した帝国軍の残党狩りに行ってまいります。エリザ様はくれぐれも王宮からお出になりませんように。それではこれにて」
もう数日前の、あのノヴァはいない。
そういうことなのでしょうか……。
私の内心には、深い深い憤りがありました。
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