第320話 散漫と集中

 木剣を振りながらわたくしは気もそぞろでした。

 何故かというと、ノヴァが仕合しあっているからです。


 10歳くらい年上の騎士を相手に打ちかかっているのです。


「せあっ!」

「踏み込みが浅い」


 仕合しあうといっても、年上の騎士が稽古をつけてあげているようなもの。私では全く歯が立たたないあの子ノヴァがいいようにあしらわれていることに驚いてしまいます。


 上には上がいる。そういうことなのでしょう。


「エリザヴェート殿下。手が止まっております」


 音も無く私の背後に立っていた騎士長に窘められました。

 私が恐る恐る振り返ると、騎士長もふたりの仕合いに視線を遣っています。


「身の入らぬ稽古はしない方が宜しいかと」

「ごめんなさい。私も、ノヴァの戦いを見てもよろしいかしら」

「御随意に」

「ありがとうございます」


 礼を述べて私はノヴァの動きに注目するのでした。

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