第273話 商人は己の未熟を恥じる
このジイさん、喧嘩売ってやがんのか?
「いや、アタシはただ単に値段交渉をしようとしてるだけなんだけど?」
「何のためにかね?」
何の、って言われても、そりゃあ――
アタシが一瞬口篭もると、ジイさんは言葉を続けた。
「誰のため、と言い換えてもようかろう。この取引の買い手は誰じゃね? そして売り手は誰か?」
「リュカとジイさん、だろ」
「然り。然り」
とジイさんは二度頷いた。
「双方が納得している取引に、
「そんなもん、ちょっとでも安く変えたほうがいいに――」
――決まってる。と言おうとしたアタシの手をリュカが握ってきた。
リュカの方を見ると、眉を下げて首を振っている。
こんな顔ははじめてみる。
いつも笑っている子だから。
「そちらのお嬢ちゃんは金額にも
――自己満足、なんだろうな。
言い訳になるけど、アタシは商人だ。
だから買える物はちょっとでも安い方がいい、とずっと思ってた。思い込んでた。
買い手と売り手が満足して
「悪かった」
アタシは素直に頭を下げた。
ジイさんに対してだけじゃなく、リュカに対しても、だ。
「ほう」
ジイさんが唸る。
「素直に過ちを認められるとは。その点はオヌシの美徳じゃのう」
あたしもままだまだ未熟者だ。
修業が足らねえなあ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます