第263話 魔法使いは上司の評価を改めるか

 えー、どうもお久しぶりです。

 私、ナターシャです。


 サナダホテルウェントリア――通称宿――で湯沸かし担当とフロントスタッフをやらせてもらっています。


 今の私はホテルのフロントでお客様の来館を待っていました。

 いわゆる待機時間というやつです。

 一番手持ち無沙汰な時間帯……なんてことは全くなくて。


「ナターシャさん、手が止まっていますよ」

「うっすみません」


 私は大量の納品書と請求書の突合せを行っていたのでした。

 私というか、出入りの商人さんたちもこんなものを扱ったことはありませんでしたが、ユーマさんが全て段取りをして、アイさんが実行に移しました。都度金銭のやりとりを発生させることなく、十日とか二十日とか、取引相手に応じて柔軟にまとめて支払いを行うことで金銭トラブルを減らすのが目的だそうです。


 その代わりに帳簿付けという、今までやったこともないお仕事が発生しておりまして、


「それからそこの三行目、数字を間違えています」

「ひょっ!」


 変な声出ちゃいました。

 アイさん、私の方なんか殆ど見てないはずなんですけど、どうして? どういうことなんです……?


 視線を殆ど動かさずアイさんは超高速で手を動かしています。

 私の三倍、いや、五倍は速いです。


「――どうやらお疲れのようですし、短時間であれば休憩しても構いません」

「やったーぃ!」


 なんだかアイさん、最近ちょっと優しくなりましたよね。


「その手の中の書類が終わったら、ですが」

「はぁーい……」


 前言撤回。そうでもないです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る