第216話 朝食時間に問答を

 ――翌朝。

 こぢんまりした宿屋の一階の喫茶スペースで、ナーシャに出された茶を飲みながら、俺はマーシャと雑談をしていた。


「あのあのっ、お兄さんは宿屋さんなんですよね。何をしに王都に来たんですか?」

「こらっ。お客様に失礼なことを言わないの!」


 ナーシャが強い口調で窘めると、マーシャは「うにゃっ」と鳴いた。なんとなくリュカを思い出す。早くもホームシックだろうか。子供か俺は。


「いえ、構いませんよ」

「そうですか?」

「まあ、なんでも話せるわけでもないですが」


 と苦笑すると、ナーシャも微笑した。

 俺はマーシャに視線を移して、


「何をしに来たと思う?」


 と問うた。


「しじょーちょーさ、っていうやつ?」

「難しい言葉を知ってるね」

「えへへ」


 市場調査。

 王都への出店意欲が無いではないが。


「違うかな。ちょっと色々調べ物という意味では“調査”は合ってるかもしれないな」

「よくわかんない」

「わからなくていいよ。わからない方がいい」

「そうなの?」

「宿泊客の込み入った事情なんか知らない方がいい。知っておくべきは好き嫌いと懐具合かな」

「はぁーい」


 なんとかはぐらかせたかな。


 下手に俺の事情を話せば、この宿に迷惑がかかるかもしれない。

 それは避けなければなるまい。

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