第191話 年嵩の頑固者と柔軟な若人

 王宮に近づくにつれ、店や家はまばらになっていく。代わりに軍隊の詰所らしき施設がさりげなく、王宮の美観を損なわないよう配置されていた。中には比較的新しい建物もあった。過去の事例から防衛線を引き直したか。


 王宮の周囲をぐるりと巡らされている大きなほり

 跳ね橋が降りていて、王宮へ辿り着くにはここを渡るしかない。エリザヴェートが使ったという抜け道を除けば、だが。


 跳ね橋の向こう、王宮の門の手前には槍を手に、腰に剣を帯びた衛兵が二名。年嵩としかさの男とまだ若い青年と。思ったより警備は手薄だ。ウチの裏山の方がよっぽど厳重だな、などと内心苦笑する。


「何者か!」


 年嵩の男に誰何すいかされた。槍を向けるな。槍を。

 俺は両手を上にひらひらと挙げ、敵意が無いことを示しつつ、


「俺はユーマ・サナダという。第三王位継承権者か赤の勇者に取り次いでもらいたい」

「貴様がユーマ・サナダ殿本人と証明することは可能か?」


 そんなことを言うので思わず乾いた笑いが漏れた。


「ははっ」

「何が可笑しい」


 悪魔の証明みたいなことを言うな。運転免許証も保険証もないんだぞこの異世界。なんなら戸籍台帳すら怪しいんじゃないのか? どうやって本人である証明をさせるつもりなんだ。


「なんだろう? 赤の勇者のトンチキ振りや第三王女の無鉄砲さについて語れば俺を俺だと認めてくれるんだろうか?」

「貴様! 勇者殿と姫様を侮辱するか!」

「いや、貴方が証明しろと言うから。俺の依頼人の為人ひととなりを語れば信じてもらえるかな、とね」


 俺も人間ができている方ではないので無礼者にはつい底意地が悪くなってしまう。


(底意地が悪いのは元からだと思うがの)


 うるさいな。


「貴様ぁ!!」


 激昂する年嵩の衛兵。そろそろ槍を突き出しかねない雰囲気だ。

 さてどうしたもんか、と思っていたら、今まで黙っていた若い衛兵が口を開いた。


「分隊長殿! 彼はノヴァ様の仰っていた風体と言動です。一度、ノヴァ様に確認を取ってみてはいかがでしょうか?」


 お。えらい。ちゃんとしてるな君は。

 というかノヴァ、何をどう伝えておいたんだ一体。


「む、わかった。私がノヴァ様に確認を取りに行く。貴様はここでこの者を見張っておけ」

「了解しました!」


 若者は敬礼。

 年嵩の衛兵は門の脇の小さな扉から向こうへ消えていった。

 俺はへらっと笑いながら若者に謝罪する。


「いやあ、すまんね」

「ユーマ殿、私の上官を挑発するのはおやめください」

「面目ない。つうか、君は俺のことを本人だと認めてくれるんだな」

「見たこともないほど整った仕立ての、珍しい服を着て、口と態度と人相の悪い御仁だと、ノヴァ様から伺っておりましたので」

「後半部分完全に悪口だなオイ」

「失礼しました。ですが苦情はノヴァ様までお願いいたします」


 なかなか面の皮の厚い若者だ。嫌いじゃない。


「ああ、そうするよ」


 と、俺は軽く頷いた。

 あのバカ勇者め。好き放題ほざきやがって。

 後で見てろよ。

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