第531話 合意

「そんなわけで我が帝国としては、王国で最新の宿屋を視察したいと考えている」


 なにが「そんなわけで」だ。

 断れ。断ってしまえヴィクトール。


「貴国との親交が深まるなら、やぶさかではないね」


 おいコラぁ!

 講和会議の場でなければ声を上げていたに違いない。

 隣のイグナイトが「落ち着け」とかやってくれている。


「認めてくれるかね」


 ヴィクトールの前向きな発言に高杉も気を良くしている。いや、お前ら勝手に話を進めるんじゃあない。視察の受け入れ先はどう考えても俺の所なんだが? 待て待て。握手とかやめろ。合意はまだ早いだろ。


「――まあ、一応当事者の意見を聞いておこうか」


 合意の寸前で手を引っ込めたヴィクトールがこちらをちらりと見た。絶対面白がってるだろお前。


「我らが英雄よ、どうだろうか。帝国の視察を君の宿屋で受け入れてはもらえないだろうか?」


 高杉の期待の眼差し。お前も面白がってるな。

 イグナイトの心配そうな顔。本当にいい奴だなこいつ。

 エリザヴェートは眉を逆立てて「断れ」とアピールしている。帝国嫌いすぎるだろ。お前も一旦落ち着け。


 全員の視線を受けて俺は軽く咳払いをした。



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