第170話 骨刀乱舞し、魂は哄笑す

 太陽が天高く輝いている。こんな時間帯に野盗に遭うとは。日頃の行いにはいささか以上に自信があるんだが一体どういうわけだ。


 俺は舗装された街路に着地と同時、俺は交差させた両の指先を、と虚空に突っ込んだ。掴み出すのはいつもの骨の短刀――“終焉ついの先触れ”だ。今回は二振り。

 人差し指と中指の間に挟んでぞろりと抜き出した刃。

 両腕を鞭のようにしならせて、投擲する。


 直線軌道の二刀は途中で野球の変化球のように動きを変えた。二度、三度。変化球どころではない。ごろつきレベルでは目で追うこともできない無茶苦茶な動きで二刀は複数人の喉を切り裂いた。

 全員、糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。大量の出血とともに。


 骨刀はひゅんひゅんと宙を舞い、俺の手に戻ってくる。よし、上手くできた。二本なら完璧に制御コントロールできるな。


「な、なんだテメエ!?」

「それはこっちの台詞だ。大人しく拘束されて全部吐くなら生かしておいてやる。さもなければそこに転がってる連中と同じ末路だぞ」

「不意打ちが偶々上手くいっただけだろうが!」


 おっと、痛いところを。

 図星を突かれたな。

 接近戦は不得手な俺である。

 そもそも争いごとは好きではない。


「やっちまえ!」

「うおおおっ!!」


 野盗の集団は馬車はさておき、俺を標的としたようだ。

 そこまではいい。

 “終焉ついの先触れ”二刀ではちょっと対処しきれない頭数だ。八本同時操作は無理がある。俺自身が隙だらけになって攻撃を貰ってしまうだろう。今の俺では三本目から途端に制御が怪しくなってくる。ジャグリングと同じだな。三本目から難易度が跳ね上がる。


 それはそれとして、俺はあまり汚れたくない。

 王都を訪ねるということで、一張羅のスーツを着ているのだ。

 というわけで、


「任せていいか、ミラベル――」


(よかろう! ふははははははは!!!)


 がくん、と視界が揺れた。久しぶりだな、この感じも。

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