第267話 商人は取引先に疑念を抱きかける

 ……しばらく経ったら落ち着いた。

 たぶん。

 落ち着いた、ってことにしておこう。


 ウジウジしてても仕方ない。


 第一、何しにわざわざ帝国領まで来たんだ、って話だ。

 買物。

 仕入れ。

 掘り出し物を探しに来たんだアタシは。


「リュカ、行こう。あのオッサンに売りつけるものを仕入れるんだ」

「ぼったくるデス?」

「滅多なことを言うなよ。アタシは真っ当な取引しかしてない。あのオッサンの財布の紐が緩すぎるんだよ」

「そうなんデス?」


「リュカだって給金貰ってるだろ?」

「お小遣いのことデス?」


 小遣い制でこき使ってんのか、とアタシがオッサンを疑いそうになるより先に、


「今、銀貨10枚くらい貯まってるデスヨ!」


 とリュカが能天気な笑顔で言ったのだった。


「は? 銀貨?」

「銀貨デスヨ!」


 お小遣いなんて呑気な表現じゃ追いつかないような金額与えてやがるあのオッサン。正気か。一般的な成人男性の月の収入が銀貨2枚とか3枚だぞ? どんだけ厚遇でリュカを囲ってんだ。変態か? 獣人幼女好きの変態なのか?


「でもジブンあんまりお金使わないからナターシャが預かってくれてるデス」

「そうなのか」

「そうなのデス!」


 まあ、あの魔法使いの子なら使いこんだりしないだろうし、そこは安心か。

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