第77話 好き嫌いは表明することも察することも難しい。

 玄関を出たところでノヴァが身支度を整えて待っていた。

 剣はともかく鎧と服はボロボロになっていた。俺、というか「ヤツ」のせいで。

 ムラノヴォルタで買い替えた方がいいだろうな。


「すまん。遅くなった」

「構わん。……その子も連れて行くのか?」

「迷惑はかけない、つもりだ」


 自信は全くないが。


「そうか。ならば私から言うことは何もない」


 そう言っている時点で凄くもの言いたげなのだが……。


「リュカ、シュラ行くぞ」

「はいデスヨ!」


 リュカがシュラの背中に飛び乗り、シュラが一声啼いた。



 修理の終わった吊り橋を渡って、踏み固められた獣道を下りてゆく。

 俺が先頭、真ん中にリュカを乗せたシュラ、最後尾がノヴァという隊列だ。

 俺は少しだけ振り返り、リュカに問う。


「リュカ。以前に俺が言ったことを覚えてるよな?」

「にゅー」

「覚えていないとかいうなよ」

「覚えてるデスヨ! ホテル宿屋で働くか冒険者を続けるかの話デスヨ!」


 よしよし。


「結論は出たか?」

「……」

「迷っているのか?」

「ジブンは、宿屋がいいデスヨ。ナターシャは優しいし、ご飯はおいしいし、ベッドはふわふわだし、アイは……ちょっとこわいデスケド、嫌なやつじゃないデス」

「俺は?」

「ユーマは嫌いデスヨ!」


 間髪入れずに断言は若干傷つくものがあるな。

 肩を落とす俺に最後尾から笑い声が跳んでくる。


「くくっ」

「王国の勇者殿は人が嫌われているのを見て笑う趣味があるのか」

「本当に嫌な相手に嫌いだなどと口にするわけがなかろう」

「む」


 ……そういうものか?

 リュカの顔を見ると、俺の視線に気づいてさっと顔を伏せた。代わりにシュラが俺をガン見してくる。悪いが今日はカルパスは持ってないぞ。それを察したシュラがくーん、と哀れを誘う声で啼いた。そんな声出してもない袖は振れない。

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