第68話 クレーマー対応(釈明)

「そちらの事情は理解した」

「そうか」

「こちらの言い分も聞いてもらえると有難い」

「勿論だ。そのために私が来たのだから」


 どうやら聞いてもらえるらしい。


「まず前提として知って欲しいのは、そこの建物はダンジョンではないということだ。アレは俺の運営しているホテル――宿屋なんだ」

「どうやって建てたのだ? 報告ではある日突然出現したということだが」


 異世界転生は信じてもらえるのだろうか。

 だが、他に説明の方法がない。

 事ここに至っては正直に告白するしかない。


「俺はこの世界の人間ではない。こことは別の世界からやってきた。あの建物ごとな」

「――ほう」


 ノヴァは片方の眉を器用に動かした。

 怪訝な表情というよりは興味があるという雰囲気、か?

 

「だからあの建物を造られた技術はこの世界のそれとは隔絶している。知らない者がダンジョンと認識するのも無理はない、と思う」

「なるほど」

「俺がこの世界にやってきて二日目だったか。あのリックがやってきた。そしてうちのホテル宿屋をダンジョンと誤解した。。それ以降、冒険者はダンジョン攻略と称して二日と空けずにやってくる。こちらも迷惑しているんだ」


 本当に迷惑しているのだ。

 そして先に手を出してきたのはそっちだ。


「身ぐるみ剥がされ川に流されるという話だが?」

「――正当防衛だ。万が一宿泊希望者がいては困るので毎回声は掛けている。返事は怒号ばかりだけどな」

「貴公が多数の骸骨を擁していることについては?」

「俺は死霊魔術ネクロマンシーが使える。使えるものを使っているだけだ。冒険者には死者は出していないことをこちらの配慮だと思って頂きたい」

「ふむ」


 ノヴァは腕を組んで瞑目した。

 ややあって、口を開く。


「貴公の発言には筋が通っている」


 よし。


「貴公の発言が全て事実だとすれば、な」

「信用できないってわけだ」

「異世界の者といえばと相場が決まっている」


 死霊術師ネクロマンサーに見出されたホテル経営者で悪かったな。


「あのダンジョン――いや、宿屋か。ともかくあの建物と貴公らは王国の管理下に置かせてもらう」


 管理下に置かせてもらう、じゃないんだよなあ。


「流石に横暴じゃないか。当方としては受諾しかねる」

「ならば力尽くでも従ってもらおう。貴公らのためにもな」


 剣呑な雰囲気。

 やっぱり結局こうなるのか。

 俺のためだというならほっといてほしいもんだ。


「そういうのを余計なお節介って言うんだよ」

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