第45話 誤解を解いて事態の収拾を図りたい

 メイナード町長は慎重に言葉を選んでいるようだった。それはそうだろう。目の前にいるを悪名高いダンジョンの主だと認識しているんだろうから。


「……しかしながら、あの、ユーマさん、どうか、気を悪くしないで聞いて頂きたいのですが、あなたの宿に向かった冒険者が多数の骸骨兵スケルトンウォリアーに撃退されている、という事実について……私はどのように理解すれば、よろしいのでしょうか」


 身ぐるみ剥がして川に流しているという事実は口に出さないか。

 こちらに気を遣ってくれている、と考えていいのだろうか。

 質問に対するこちらの答えは単純にして明瞭だ。


「たとえばこのムラノヴォルタに獣が現れたとします。当然、この町の住人はその獣を駆除しますよね。昨日のクマのように。私も同じことをしただけのことです」


「なるほど。外敵を排除した、と」


「冒険者は私の宿をダンジョンと見做みなして乗り込んできています。宿泊目的のお客様なら諸手を挙げて歓迎しますが、押し入り強盗にはそれ相応の対応をさせていただく。もっとも私は彼らを殺してはいない。これでも可能な限りの譲歩はしているつもりです」


「ではあの骸骨兵については……」


「私は死霊魔術ネクロマンシーを使えますから。使えるものを使って冒険者諸氏に対処しているだけですよ」


 使えるのは俺ではないが――

(儂じゃがな!)

 ――これくらいのハッタリは必要だろう。

 俺がにっこりと口角を上げてみせると、メイナード町長は一瞬たじろいたが、すぐに居ずまいを正した。やはりきちんとした人のようだ。


「あの場所にユーマ……殿の宿が突然現れたことについて、ご説明いただけませんか?」


 ユーマさんからユーマ殿になったな。脅しがキツすぎただろうか。


「それについては正直私もわかりかねます」


 異世界転生など言っても信じてもらえまい。くわえて言えば異世界転生あれ自体と転生場所に因果関係はないように思える。


「ただ、私も困っているのです。冒険者諸氏のダンジョン扱いには辟易しておりまして。どうかメイナード町長にお力添えいただけませんでしょうか?」


「ご事情はよくわかりました――」


 メイナード町長が小さく頷いた。

 よし。

 いけるか、と思った。

 その時だ。


「ちょっと待て!!」


 怒声と共に勢いよく応接室のドアが開いた。

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