第33話 お金と宿屋の事情

 使わない鹵獲品は表通りから一本裏に入った怪しい古道具屋の怪しいオヤジに売り払った。こちとら目利きはできないので向こうの言い値で引き取ってもらったわけだが、なんだかんだで結構いい金になったと思う。今まで無一文だったので文句はない。


 バックパックに詰めてきた杖やら道具やら薬草やらは全部で銀貨四枚と銅貨五枚、それとよくわからない金属のバラバラのサイズ感のコイン十数枚になった。とりあえずは貨幣で世の中回っているらしい。


「この銀貨はどれくらいの価値だ?」

「はい。銅貨百枚が銀貨一枚ですね」


 なるほどわからん。


「大人一人が一ヶ月働いたらどれくらいの金になる?」

「場所と仕事の内容にもよりますが、だいたい銀貨二、三枚でしょうか」


 ん。結構すごいな銀貨。


「ちなみに金貨は?」

「普通こういうところでは使われませんよ。銀貨百枚ぶんですし」

「なるほどね」


 ざっくり銀貨一枚が十万円、銅貨一枚で千円くらいの感覚かな。

 金貨は一枚一千万円。確かに余程使うことはなさそうだ。


「ところでこの変なコインは何?」

賤貨せんかですね。銅貨未満の価値しかありませんし、あまり取引相手には喜ばれないですね。価値も一定じゃないですし」

「ふうん。なんでこんな変な硬貨モドキが出回ってる?」

「かつて存在した国の硬貨なんですよ。だから銅貨未満の代金の支払いに充てられることが多いんです」


 かつて存在した国、ね。俺なら滅んだ国の硬貨なんぞ全部集めて溶かして潰して自国の硬貨に作り直させるけどなあ。


「国破れても貨幣は残り、か」


 諸行無常。

 気にしてもしょうがないか。


「すまん、話が逸れたな。本題だけど宿屋の相場ってどれくらい?」

「銅貨一枚で最安のところには泊まれますよ」


 一泊千円は元の世界でも相当アレだぞ……。


「その銅貨一枚で泊まれる宿とやらの設備は?」

「屋根があって寝藁が敷いてありますね」

「それは馬小屋じゃないのか?」

「あはは。そうとも言いますねっ」


 そのレベルは競合店として考慮する必要は無いだろう。


「では改めて、この集落で一番いい宿屋を頼む」

「はいっ」

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